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2008年6月19日 (木)

外国人の見た日本語

外国人から見た日本語について書かれた本を2冊。

日本語の森を歩いて フランス語から見た日本語学/フランス・ドルヌ、小林康夫(講談社現代新書,2005)
 まずは言語の専門家の本。
 フランス・ドルヌと小林康夫は国際結婚の夫婦で、ともに言語学の研究者。この本は、妻であるフランス・ドルヌがフランス語で書いた原稿をベースに、夫の小林康夫が日本語に翻訳しながら加筆したり書き直したりしたものだという。夫婦合作本である。
 日本人が普通だと思っている日本語の表現も、フランス人から見ると奇妙に見えるところが多数あるらしい。それはまあ当たり前なのだが、この本の場合、視点が独特でおもしろい。
 「発話操作理論の言語学」というらしいが、「言葉」がどういう場面で、どういう人によって発せられたかを分析することによって、その言語の特性を研究するものらしい。
 つまり対象はあくまで「話された言葉」であって、書き言葉ではない。まえがきでいきなり「『空は青い』という『文』は文法的には正しいかもしれませんが、いったい誰がこんな言い方をするでしょうか。」と書いてあるのを見て「そりゃそうだよな」と納得してしまった。
 ここから始まって、日本語の「先」と「奥」の意味、「に」や「て」の用法の背後にある考え方、日本語ではなぜ「病気」が治るとは言うが、「人」が治るとは言わないのか、「よく言うよ」は、悪い意味なのになぜ「よく」なのか、等々、今まで何の疑問もなく使っていた表現の不思議さを暴き、論理的に解明する鮮やかさに、目からウロコが落ちること数知れず。
 単なる日本語論に留まらず、言語関係の本としても、ここ数年で読んだ中で一二を争うおもしろさだった。

怪しい日本語研究室/イアン・アーシー(新潮文庫,2003)
 著者はカナダ人。職業は「和文英訳」の翻訳家だとか。
 日本の中学校で英会話を教えるかたわら、日本語を独学で勉強したのだとか。(日本語をマスターする前はどうやって教えていたのだろう?)
 言語の専門家ではなく、単なる日本オタク、日本語オタクである。
 だが、その視点は時として言語学者以上に鋭く、日本人の言語生活にひそむ問題をついていたりする。
 この本には日本語にまつわる(著者の言葉を借りれば、「日本語を点検したり、解剖したり、そして診断したりする」)コラムが30編ほど収録されているのだが、例えばその中の最初のエッセイ「属人的な言語、属地的な言語」では、成田空港の到着口に掲げられたこんな看板が話題になる。 

 おかえりなさい Welcome to Japan

 日本人が見たら何の変哲もない看板なのだが、これに対して、著者はこんな感想を述べる。

「ようこそ日本へ」は英語でしか書いてないのだ。日本語が読めるくらいの人だと日本人に決まっている、日本へ歓迎する意味がない。「おかえりなさい」で充分なはずだ。という意識が見え隠れしている。

 と、このへんはまともな、新聞にでも載っていそうな、日本社会への辛口コメントなのだが、ページが進むにつれて、どんどん変に、というかオタクぶりが明らかになってくる。
 「名ばかりの話」では、電話で「イアン・アーシー」と名乗っても(もちろん日本語でしゃべっているのだ)、なかなか正確に聞き取ってくれない(日本語をしゃべっているので、日本人だと間違えられるらしい)著者が思いついた戦法が、適当に日本人の名前を名乗ること。が、そこがオタク、普通の名前じゃ物足りないと、「正親町三条」と名乗る。が、当然ながら相手は混乱するばかり…。
 他にも、「徒然草」や「枕草子」をお役所風の文体に変換したり(これがめちゃくちゃおかしい)、省庁再編に当たっての新しい役所の名前を勝手に考えたり、外来語の氾濫を日本人以上に嘆いたり、その一方で外来語で遊んだりと、日本語へのマニアックな興味は尽きることを知らない。
 ここまで日本語を愛し、執着し、かつ日本語で遊ぶことを知っている人間は、日本人でさえ珍しいだろう。そういう日本人は、まぎれもなく「変な人」である。
 だから、著者が「変な外人」と呼ばれても、それは何の不思議もない。
 解説の中で清水義範が、著者を指して「由緒正しい正統の変な外人」と書いているのはまったく正しいのだ。

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コメント

狂歌のなんだかGoogle捜索したら、「外人。。日本語」に気づいて。拙著「英語はこんなにニッポン語」も紹介してくれ(もう絶版でしょうが)。

ところで、和歌・俳諧・狂歌・川柳などによく見当たる、最後に出てくる名詞を形容するばかりのPoemこそ、日本だけのものではありませんか?又、れっきとしたPoemsがあんなに掛詞に頼る文字もある言語は、どれだけおられようか・・・

投稿: 敬愚 | 2008年8月25日 (月) 06時59分

ロビン・ギルさんですか?
コメントありがとうございます。
『英語はこんなにニッポン語』は持ってます。ちくま文庫版です。かなり面白かった印象があります。
でも、読んだのが15年くらい前なので、記憶力のない悲しさ、読み返さないと紹介が書けないのです。
でも、いつか紹介してみたい本には間違いないので、いずれ、もう一度読んだら、このブログで取り上げることになると思います。

投稿: りゅうじ | 2008年9月 4日 (木) 23時00分

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