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2009年3月 3日 (火)

言語世界地図

言語世界地図/町田健(新潮新書,2008)
 一人の著者が世界の言語について書いた新書―というと、黒田龍之介『世界の言語入門』(2008年11月16日のエントリー)と同じような趣向である。著者も同じ言語学者。元はフランス語が専門だそうだが、言語学理論に関する著作が多い。
 しかし、共通点は外枠だけ。中味は全然印象が違う。
 本書は世界の46の主な言語を取り上げ、地図つきで解説している。だからタイトルが「言語地図」。46という数は、90言語を取り上げた『世界の言語入門』のちょうど半分くらいである。
 「主な言語」というだけあって、ヨーロッパならスペイン語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、オランダ語、ハンガリー語、ポーランド語と、各国の公用語レベルの言語をカバーしている。マイナーな言語はバスク語くらいではないか。
 アジアや中東・アフリカに行くと、ちょっとマイナー言語が増えてきて、チベット語、ウイグル語、広東語、クルド語などが出てくる。と言っても、少なくとも百万単位の話者を持つ、世界的に見れば大きな言語ばかりである。
 また、一つの記事で必ずしも一言語だけ取り上げているわけではなく、「チェコ語・スロバキア語」、「セルビア語・クロアチア語」、「スカンジナビア諸語」、「バルト三国」、「アフガニスタンの公用語」、「チュルク諸語」など、数言語をまとめて解説しているところもある。
 そのわりに大きな言語が抜けていたりして、なぜか世界最大の話者数を持つ「中国語」の項目がない。広東語や台湾語があるのに。また、タミル語は出てくるがヒンディー語やウルドゥー語は出てこない。そのかわり「インド英語」は出てくる。
 英語については、この「インド英語」以外に、本来の「英語」の項が上・下2部構成で解説されている。フランス語も、本来の記事の他に「ケベックのフランス語」が別建て。他にベルギーの言語として紹介されている「ワロン語」も実際にはフランス語だから、三つか。英語とフランス語には非常に手厚い。
 『世界の言語入門』に出てきた言語で、本書に出てこない主要な言語は、ウクライナ語、ウズベク語、カザフ語、カタルーニャ語、ブルガリア語、ベラルーシ語、ラテン語など。逆に本書に出てきて、『世界の言語入門』に出てこない言語はケチュア語(ペルーの原住民の言語、元はインカ帝国の公用語)だけ。
 もともと、本書はビジネス雑誌『フォーサイト』に連載されたコラムを再編集したものである。読者層を考えれば、あまりマイナーな言語を取り上げるより、ビジネスの現場で出会う可能性のある言語やその国についての情報を提供することを優先した、ということか。『世界の言語入門』みたいにソルブ語とかサーミ語とかフリースランド語とか、少数民族が話す消滅寸前の言語を取り上げるなど、考えられないことなのだろう。
 それにしても、いくらビジネス雑誌のコラムとはいえ、各記事の最後が判で押したような紋切り型の表現になっているのはどうかと思う。「イタリアとイタリア語の魅力が輝きを失うことはないだろう」(「イタリア語」の項)、「我が国との関係も今後深まっていくのではないだろうか」(「チェコ語・スロバキア語」の項)、「この国が一日も早く津波の被害と紛争を乗り越えることを切に願う」(「シンハラ語」の項)、「広東語には、中央に対抗する地方勢力の息吹が脈々と流れているのである」(「広東語」の項)。
 大学生のレポートじゃないんだから、もうちょっと工夫して欲しいものだ。まあ、こんな風に思うのは、ちょっと前に『世界の言語入門』で、「男子トイレだった」とか、「すてきだよね」とか、「もっと肩の力を抜いたらいかが?」とか、言語の解説書とは思えないようなまとめ方をさんざん読んでいたせいもあるだろうが。
 『世界の言語入門』は、「これをもとにレポートなど書いたら必ず失敗することは、著者自らが保証する」と、はしがきに書いてあるように、最初から実用性を無視して書かれた本であり、それに比べると、本書は確かに、手っ取り早く世界の主要言語やその国に関する知識を入手するのに役には立つかも知れない。地図もついてるし。しかし、読み物としては、『世界の言語入門』の方が絶対おもしろい。

言語世界地図 (新潮新書)

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