天軍戦国史 天軍織田に加勢す/羅門祐人(ワニ・ノベルズ,1996)
歴史シミュレーション小説のパターンの一つとして、自衛隊が戦国時代にタイムスリップする、というのはもはや定番と化している。この定番を作ったのが半村良の『戦国自衛隊』であることはいうまでもない。
最新鋭装備を備えた自衛隊が戦国時代へ行けば、無敵であるのは当然だが(少なくとも、弾薬・燃料がある間は)、タイムスリップしたのが自衛隊ではなく、大学だったらどうなるか―という仮定でシミュレーションをやったのがこの小説。
椎名高志の4コママンガで、予備校が戦国時代にタイムスリップするが、あっという間に全滅してしまう―というのがあったが、まあ普通に考えたら、そんなものだろう。だが、この作品の大学生たちは、時と地の利を得て、しぶとく生き抜いて行く。「戦国自衛隊」じゃなくて、「戦国大学生」である。
舞台となるのは名古屋市内の大学「大和学園」。宇宙から飛来したミニブラックホールの直撃を受けた学園は、半径300メートルの空間ごと、戦国時代の尾張の国に飛ばされてしまう。たまたまその空間内に、いかにも都合のいいことに、ガソリンスタンド、ディスカウントショップ、図書館などが含まれていたことが、彼らの生き残りに大きな役割を果たすことになる。
未来から来た学園にいち早く接触したのが、尾張統一前の織田信長。未知のテクノロジーに目をつけた信長と、軍事的庇護が欲しいと学園との利害が一致し、両者はすぐさま同盟を結ぶ。「天軍」とは、天から降ってわいたような異形の集団に、信長がつけた呼び名である。
―というような、タイムスリップした学園と織田信長側とのファースト・コンタクトと、同盟に至るまでの動きを、著者は6、7ページくらいであっさりと片づけてしまう。このへんを丁寧に書いていたら、それだけで1冊分の話になるだろう。
実際の物語は、大和学園のタイムスリップから一年後、大学生集団のリーダー、風間一郎が柴田勝家らとともに織田信長に面会するところから始まる。その時の信長は、「天軍」からもらったTシャツにジーンズ、スニーカーという格好で現れるのだ。上に書いたような、タイムスリップとその後の経緯は、この衝撃的(?)な冒頭のシーンの後で、回想風に説明されるのだ。
時間ものSFとしては、現代人と過去の人間とのファースト・コンタクトこそ、もっとも力を入れたいシーンに違いない。だが、著者が書きたいのは、現代の非軍事テクノロジーが、戦国時代でどれだけ軍事的に利用できるか、さらには、戦国時代に放り込まれた現代文明が、どのようにすれば生き残りが可能になるか―というところにあるのだ。それは、第2巻、第3巻でさらに鮮明になる。
第1巻は、「天軍」の力を借りた織田信長の尾張統一、美濃侵攻、そして桶狭間で今川義元を討ち取るまで。
天軍戦国史2 激動!風林火山/羅門祐人(ワニ・ノベルズ,1997)
第1巻の最後で、大和学園の教授が敵国に出奔してしまう。知識のかたまりみたいな人物が流出してしまったわけで、この事件はその後の展開に大きな影響を与えるようなことを匂わせていたのだが、実は、教授はほとんど話にからんでこない。
そのかわり、話は別の方向に発展する。信長は近江の六角氏が教授を「拉致」したと言いがかりをつけて、討伐に名を借りて近江に軍勢を出すのだ。
一方、「天軍」のリーダー風間は、近江などどうてもよくて、ひたすら越後を手に入れたい。言うまでもなく、新潟に算出する石油が目当てである。この巻から、信長と風間の間の亀裂が徐々に明らかになっていく。
風間は近江討伐には加わらず、尾張、美濃の留守を守ることになるのだが、そこへ信長の主力軍が出払った隙をつき、武田信玄が侵攻してくる。信玄の大軍と「天軍」との戦いが、この巻のメインストーリー。
少数の残留部隊を率いて武田家の猛攻を引き受ける羽目になった風間は苦闘する。天軍戦車(四輪駆動車改造)、天軍騎馬隊(オートバイ)、空中戦艦(飛行船)が奮戦するも、次第に追い込まれ、絶体絶命―、というところで、結局は信長の機略に救われるのだが―。風間の実力に対する信長の不信は強まり(大学生に期待しすぎだとも思うが)、「これが、その後の悲劇を生む原因になるとは、まだ誰も知らない」という、いかにも思わせぶりな文章でこの巻は終わる。これが、第3巻への重大な布石になる―かと思えば、ならないのである。
この巻、「天軍」に配属された前田利家が、準主役級の活躍をする。クライマックス・シーンでは、空中戦艦から武田信玄を狙撃しようとするのだが、その時の指示の言葉が、完全に「天軍語」に、つまり現代語化しているのがおもしろい。
「狙撃ポイントは貴様にまかせる。絶対に討ち漏らすな。何発射ってもいいが、たぶん数回しかチャンスはない」
ちなみに、この指示を受けている狙撃手は、竹中半兵衛。
天軍戦国史3 織田包囲殲滅戦/羅門祐人(ワニ・ノベルズ,1997)
次第に深まる織田信長と「天軍」リーダー風間一郎との溝。織田の外様大名的な立場で独自の行動をとるようになった「天軍」は、信濃から越後へ進出する。春日山城攻略戦が、この巻のクライマックス。
ここで活躍するのが、「天軍」の開発した新兵器、潜水艦「轟天」。すごいネーミングだが、実際に現代の大学生がこういうシチュエーションに置かれたら、つけそうな名前ではある。それはともかく、潜水艦といっても、所詮戦国時代の技術で作られているので、性能はそれなりのものでしかない。「潜る」だけしか能力のない潜水艦を、戦術上どんな使い方をするかが、戦いのポイントになる。
それはともかく、この巻でますます鮮明になるのは、作品全体のテーマ。1巻のところでも書いたが、「戦国時代で、現代の技術をいかに生かし、いかに維持するか」―である。「天軍」は、この時代で入手できる材料と技術で、発電機、電球、雷管、飛行船、潜水艦、等々を作る。技術を継承するために技術者を養成する。主人公たちは、知識と技術こそが自分たちの最大の武器であることを知っており、それを絶やさないための手を打とうとするのだ。
L・スプレイグ・ディ・キャンプの『闇よ落ちるなかれ』という名作SFがある。20世紀から6世紀のローマにタイムスリップした歴史学者が、知識だけを頼りに技術革新を起こし、中世暗黒時代の到来を防ごうとする話だ。
『天軍戦国史』の風間一郎には、単に文明の維持ではない別の野心があるようだが、やろうとしていることは『闇よ落ちるなかれ』と似ている。日本の歴史シミュレーション小説では珍しいパターンである。
さらに続編があるとおもしろかったと思うのだが、この作品、これから、という3巻目で、第一部完、打ち切りになっている。3巻のあとがきでは、著者は第二部の構想を考えていたようではあるが。織田信長と「天軍」との破局や、信長の非業の死を暗示する伏線めいた表現も出てきていたのだが、それらは宙に浮いたままになってしまった。
このユニークな架空歴史小説の続きは、もう読めないのだろうか。まあ、あまり一般受けする話じゃないのはわかるが...。