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2009年9月 3日 (木)

世界人名ものがたり

世界人名ものがたり 名前でみるヨーロッパ文化/梅田修(講談社現代新書,1999)
 タイトルは「世界人名」となっているが、サブタイトルが示唆しているように、ヨーロッパの人名についての本。それも、英語圏でよく使われる人名が中心。まあ、200ページちょっとの新書で世界中の人名について語るのは無理な話だし、著者が英語の専門家なので、英語に偏るのは仕方がないところか。
 まず「序」でヨーロッパの人名について概略を述べた後、1章から5章までの各論で、代表的な名前(姓ではなく、ファーストネームの方)を取り上げて、その由来、各国ごとのバリエーション、同名の有名人のエピソードなどを語る。このエピソードの部分は、歴史にちょと詳しい人間なら知っているようなものが多いのだが、「名前」という共通項で時代も場所も違う歴史上の出来事をつなぐ語り方はあまり例がなく、つい興味をひかれて読んでしまう。
 何より、1章から5章までの構成がよくできている。
 各章で取り上げられている主な人名(英語形)は、次のようなもの。1章ではジョン、エリザベス、マイケル、メアリーなど。2章ではヘレン、アレクサンダー、フィリップ、ジョージ、マーガレットなど。3章ではジュリアン、エミリア、マーティン、ルーシー、ローレンスなど。4章ではルイス、チャールズ、ヘンリー、ロバートなど。5章ではブリジット、アーサー、ジェニファー、ブライアン、ドナルドなど。
 どれもこれも、英米人によくある名前ばかりだが、どういう原理で分けられているかわかるだろうか。
 実はこれらは、言語的な起源が違う。それぞれ、元は別々の言葉を話す別々の民族の名前だったのだ。
 第1章は、聖書に出てくるヘブライ語起源の名前、つまり古代ユダヤ民族の人名。第2章は、古代ギリシア人の名前が起源で、元をただせばもちろん古代ギリシア語。第3章は古代ローマ人の名前を起源とするもので、元来はラテン語。第4章はゲルマン系の名前で、古ゲルマン語は英語の遠い祖先だから、この章の名前だけは、イギリス人が直系の先祖から受け継いだものと言えるわけだ。第5章は、フランスやイギリス諸島の先住民、ケルト民族の名前が起源で、現在のウェールズ語やゲール語の祖先である古ケルト語に由来する。
 各章ごとに個別の名前の由来だけでなく、その文化的背景も説明してあって、今のヨーロッパ、というより西欧文明そのものが、いかに多様な文化の積み重ねの上に成り立っているかがわかる。それを章立ての構成だけで浮き上がらせる巧みさには感心する。
 最後にロシアや北欧の名前について解説する6章があるが、これはつけ足しのようなもの。
 とにかく、歴史ファンであり言語ファンでもある人間にとっては、興味のつきない内容で、新書だからしかたがないけど、できればもっとボリュームが欲しかった。ついでに、索引も欲しかった。
 だから、この本を読んだ当時、あとがきの最後で著者が「まもなく刊行予定の『ヨーロッパ人名語源辞典』(大修館書店)をご参照ください」と書いてあるのを読んで、大いに期待したものだ。
 予告どおり本書の約半年後に刊行された『ヨーロッパ人名語源辞典』は、400ページ近い大判ハードカバーの本で、満足のいく内容だった。値段もそれなりだったが。何より、詳細な索引がついているのがいい。ちなみに、この本の構成は本書とまったく同じである。内容も重なっている部分が多く、本書の拡大版といっていい。ということは、『ヨーロッパ人名語源辞典』があれば、本書は別にいらないのか...。

ヨーロッパ人名語源事典
(これは『ヨーロッパ人名語源辞典』の方)

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