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2011年1月11日 (火)

読みもの日本語辞典

読みもの日本語辞典/中村幸弘(角川文庫ソフィア,1997)
 何気なく使っている日本語の「言葉の部品」の成り立ちを考察する本。
 単語の単位で言葉の成り立ちを説明した本はいくつもあるが、独立した語ではなく「部品」というところが珍しい。
 どういうことかというと、例えば、「いぎたない」の頭の「い」とか、「一昨日(おととい)」、「一昨年(おととし)」の「おと」とか、「お笑いぐさ」の「くさ」とか、「しがない」の「しが」とか、「道すがら」の「すがら」とか、「のし歩く」の「のし」とか、「はみ出す」の「はみ」とか、意味を考えずに使っていた言葉の一部分について、それぞれがどういう由来の言葉で、元来の意味は何だったのか、古語に遡って考察しているのだ。
 中には意外な発見をもたらしてくれるものもある。「負けず嫌い」という言葉は、「負けることが嫌い」なのだから、本来は「負け嫌い」という形になるはずなのに、なぜ余計な「ず」が間に入っているのか――なんて、盲点をつかれる思いがする指摘だった。確かにそう言われてみれば、「負けず=負けない」が嫌いというのは変である。
 言われるまで気づかなかった言葉をもう一つあげると、「けなげだ」の「けな」。「健気」と書くのは当て字で、この言葉は、「悲しげだ」「寂しげだ」「怪しげだ」「物欲しげだ」「曰くありげだ」などといった「○○げ」というパターンの形容動詞の一族らしい。だとすれば、「げ」を引いた残りの「けな」とは、いったいどういう意味で、どういう由来の言葉なのか。
 ――とか、あるいは、「見舞い」と「目眩(めまい)」の「まい」が同じ語源だとか、「氷魚(ひお)」や「氷室(ひむろ)」の「ひ」と読む「氷」と、「こおり」と読む「氷」との違いは何か――とか、知らなかったことがぞろぞろ出てくる。
 「辞典」というタイトルのとおり、取り上げた言葉の部品の50音順に項目が配列されている。ただし、項目数は全部で百しかないので、辞典というには少々足りない。辞典形式の読みものと考えた方がいいだろう。
 確かに、狙いはおもしろいものがあるし、内容は発見に富んでいる。中には、いろいろ考察を重ねたあげく、結局「由来がわからない」という項目もあったりするが、かえって誠実さを感じさせる。
 だが、惜しいことに、文章が好みに合わなかった。内容はおもしろいのだが、文章が「読みもの」としてどうなのか。文末にやたら「――でしょう」とか「――でしょうか」とかが使われたり、「思われるのです」が頻出したり、曖昧な言い方が多すぎていらいらする。タイトルで「読みもの」と断っているのだから、もう少し歯切れ良く語ってもいいと思うのだが。
 なお、著者は長く高校で国語を教えていたそうで(この本の出版時は國學院大教授)、受験生向けの古文の解説書や古語辞典(これは本当の辞典)を出している、古文の専門家である。

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