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2013年3月 7日 (木)

言語学のたのしみ

言語学のたのしみ/千野栄一(大修館書店,1980)
 今回は、思い出の本。というか、言語学本マイベストと言ってもいい。
 スラブ言語学の第一人者だった故千野栄一(2002年没)の言語学エッセイ。そのタイトルのとおり、初めて言語学の面白さを教えてくれた本である。
 帯の惹句にいわく、「ラーメンの命名論、宇宙人との対話、地名・人名考から言語の普遍性の研究まで、軽妙な筆で言語学の愉しさと奥行を語る17章」
 バラエティ、アイデアの奇抜さ、それでいて濃厚な学術の香りといったものが、今も強く印象に残っていて、自分にとってこれにまさる言語学の本はちょっとない。

 内容を見てみる。
 帯に書いてあるとおり全17章を、第1部「言語学の愉しみ」(1~10章)、第2部「言語学ア・ラ・カルト」(11~17章)の2部構成で収録。
「言語学」といっても特に学問的な大系性があるわけではなく、特に第1部は「言語ネタエッセイ集」という方が実態に近い。
 特に序盤が意表をつくテーマばかりで秀逸。
 1「アンドロメダ星人との対話」2「長い長いヒドラの話」3「「元祖ゴキブリラーメン」考」4「タモリの言語学」(ちなみに、タモリは本書が出版された当時、まだメジャーになり始めたばかりだった)と、タイトルだけでも読まずにいられなくなる。
 5「地名学と言語学」以降は、6「人名学と言語学」、7「ことばの旅」と、わりと普通になる。ただ、地名や人名に潜む面白さを語る手並みは鮮やか。著者の専門がチェコ語などスラブ系言語なので、ネタも東欧のものが多い。
 8「現代のロゼッタ石」は、80種類の言語の実演を収録したレコードを作成する話。東京で80の言語の語り手が見つかってしまうというのが、考えてみるとすごい。
 9「日本語と日本人」は日本語の特性について述べたもので、第1部では一番まともな言語学。
 10「ことばの不思議」は、言語によって違う音素――つまり、子音と母音の数が言語によってどれだけ違いがあるかという話。カフカス地方のウビフ語という言語には、子音がなんと80種類もある(日本語は16で英語は20と言われる)。ところがこのウビフ語、母音は2種類しかないのだとか。蛇足だが、このウビフ語という言語は、本書が出た時点ではまだかろうじて存続していたのだが、1990年頃に最後の話者が死んでしまって、今や絶滅言語になっているとか。
 第1部が個別言語を扱った話、つまり具体的なテーマが多かったのに対し、第2部はより理論的、あるいは学術的な話が多い。
 11「言語は変化する」12「言語の普遍性」言語学全般のテーマ。さらに13「プラハのヤーコブソン」14「プラーグ学派の詩学」は言語学史と、これぞ言語学、という印象。
 15「言語記号は記号か」16「情緒の言語」も、それぞれ言語と記号、言語の機能という言語学の大テーマ。最後は17「ソシュールとソビエト言語学」、タイトルのとおり。
 しかし内容はそんなに固いと思えない。いや、ソシュール言語学がソ連にどのように受け入れられたか――なんてテーマが固くないわけはないのだが…。前半から読んでいくと、後半にさしかかる頃には脳が言語学に取り憑かれていて、固い話も固いと思えなくなっているらしい。
 著者もあとがきで書いている。「第Ⅱ部に行くと、やや専門的な部分もあるので、ぜひ最初から読んでいただきたい」と。
 アンドロメダ星人やヒドラの話を読んでいく内に、脳内に変な汁が分泌されて、言語についての話なら何でも面白いと感じるようになってくるのだと思われる。この現象には永続性があるらしく、今でも影響が続いていて、本ブログにも「言葉」というカテゴリーがあるのは見てのとおり。
 といっても、言語学を本格的に勉強しようなどとは毛頭思わず、あくまでオタク的興味に終始しつつ今に至っているわけだが。

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