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2013年4月19日 (金)

3月に読んだ本から

 またずいぶん間が空いてしまっったが、3月に読んだ本から2冊。

役割語研究の展開/金水敏編(くろしお出版,2011)

 以前に本書の編者である金水敏の『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』を紹介した(2008年7月13日のエントリー)が、「役割語」の概念はその後広く受け入れられているようで、今やネットでも普通に見かける。日本語論のテーマの一つにもなっていて、本書はその研究成果をまとめてものであり、れっきとした学術論文集である。(実はこの本の前にも『役割語研究の地平』という論文集が出ているが、そちらは未読。)
 また、本書は科学研究費助成事業「役割語の理論的基盤に関する総合的研究」の成果報告でもあり、神戸大学で開催されたシンポジウムが元になっている。表紙を見るととてもそんな硬い本と思えないところが、役割語研究の一面をよく表している。
 内容は5部構成。
 第1部「キャラクタをめぐって」は、言わば導入部。金水敏による役割語総説「現代日本語の役割語と発話キャラクタ」の他、役割語と文法やコンテクストの関係を論じた3本を収録。
 第2部「教育と役割語」は、言ってみれば韓国と役割語がテーマ。韓国の日本語教育で役割語がどう使われているか、及び日韓翻訳で役割語がどう訳されているか、を論じた2本。韓国語にも役割語的な要素があるらしい。しかし、韓国語を知らないとせっかく紹介されている実例がよく理解できないのだった。
 第3部「外国語と役割語」は第2部に続いて外国語(主に欧米)と役割語の関わりを扱った3本の論文からなる。こんな風に国際的な視点が多いのが本書の特徴。特に「ウサイン・ボルトの"I"は、なぜ「オレ」と訳されるのか」は、本書の中心的な論文の一つだろう。オリンピックのインタビューを題材に、同じ"I"でもボルトがしゃべると「オレ」で、フェルプスがしゃべると「僕」になるのはなぜか――というような、選手のキャラクターと翻訳の関係を考察している。
 第4部「さまざまな役割語」は、ナウシカとクシャナの言葉使いを分析した「『風の谷のナウシカ』と役割語」をはじめ、ドラマやアニメ、マンガを題材に、沖縄人の言葉、幼児語、西洋人キャラクターの言葉を題材にした論文4本。それに加えて、大阪大学の卒業論文のダイジェストも収録されている。それにしても、「役割語」で卒論を書いている学生がほとんど女性なのはなぜなのだろう。
 第5部「ツンデレをめぐって」。本書の表紙のイラストが、ツンデレ女子高生であることから見ても、このパートが本書のハイライトであることは明らかだろう。「役割語としてのツンデレ表現」と「ツンデレ属性における言語表現の特徴」の2本の論文。どちらも力作で、膨大な量のマンガやアニメを題材にツンデレキャラの言語的特性の解明に挑んでいる。日本もとうとう、国費(科学研究費補助金)を投入してツンデレを研究する時代が来たのだ。
 なお、本書の巻末には英文アブストラクトがついているが(学術論文集なのだから、当然である)、ツンデレは訳しようがないらしく、英文でも"Tsundere"だった。
 役割語研究からはまだまだ目が離せない。

Yakuwarigo

THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」/ミシマ社編(ミシマ社,2012)
 本大好きな出版社の社員が、本大好きな全国の書店員に「おすすめの1冊」の紹介を依頼してできあがった本。
 1冊1ページ。様式美と言っていいくらいきっちりと構成が決まっていて、日付、ナンバー、書名などの書誌事項、表紙写真、手書きキャッチコピー、紹介文、「次の1冊」、執筆を担当した書店員と書店の名前、所在地、ミシマ社社員によるコメント――この各パーツが寸分の狂いもなく同じ位置に配置されている。
 1日1冊形式で365冊、それぞれに「次の1冊」がついているので、実質的には730冊くらいが取り上げられていることになる。時々、「次の1冊」が他で紹介された本と重なっているので、実数はやや少なくなるが――。
 内容は古典文学、小説、エッセイ、ビジネス書、絵本、実用書、自己啓発本に至るまで、ロングセラーもあれば出たばかりも本もあり――と、実にバラエティに富んでいる、というか、まるっきりバラバラ。『方丈記』、『百人一首』などの古典、漱石の『坊ちゃん』やサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』みたいな定番中の定番もあるが、そういうのはむしろ少数派。
 知名度が低かったり、マイナーだったりするからこそ、「これを推薦したい」という意欲の見てとれる本が半分以上。例えば村上春樹でも『ノルウェイの森』や『1Q84』ではなく、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『カンガルー日和』という、ややマニアックな本が選択されている。
 ただ、書店員が薦める本なので、店頭で手に入らないような本は入ってないようだ。
 作者別に見ると、ほとんどが1冊の著作だけ取り上げられているが、3冊紹介されている著者が3人だけいる。川上弘美、高山なおみ、穂村弘である。一方で、東野圭吾、森見登美彦、三浦しをん、冲方丁といった売れ筋が意外にも1冊も入ってなかったりする(「次の1冊」にはあるかもしれない)。「誰かが書くだろう」と思って誰も書かなかった、なんて現象もけっこう起きていたのではないかと推察される。
 ちなみに、365冊の中でちゃんと読んだことのある本は、27冊だった。そのうち、本ブログで紹介したことのある本が3冊――『海底二万里』(2009年5月30日)、『銀河英雄伝説1』(2007年3月17日)、『フェルマーの最終定理』(2012年2月27日)。

 ところで、本書の読み方というか、使い方はいろいろ考えられる。

1.ブックガイドとして
 一番普通だが、実のところ、取り上げられている本にあまりに統一性がないので、よほどの乱読家でないと、役に立たないかもしれない。
 紹介文そのものにも、バラエティありすぎ。本の内容をほとんど書かかずにとにかくすごいと押しまくっているもの、私的思い出に終始しているもの、冷静に内容を分析しているもの,,,。そこが楽しいと言えば楽しいのだが。

2.書店員による手書きポップ大会として
 手書き文字にそれぞれの個性が見える。総じて、あまり上手な字はないが、いかにも書店のポップで見そうな感じの字である。ときどき、これは店に出さない方が…と思われる字もあるが。

3.全国の主要書店ガイドとして
 少なくとも1名、この企画に応じる書店員がいる本屋が365軒紹介されているわけである。私がよく行く書店もある。どちらかというと大型書店が多いが、個性的な書店もあり、全国の各都道府県から最低1店は選ばれている。
 ミシマ社の営業担当者による書店員の紹介も面白いが、書店員に話しかける習慣がない人間にとっては、実用的な意味はあまりない。ただ、普段よく行く書店なら、店内をちらちらと観察して、これがあの紹介文を書いた人かと見当をつけるひそかな楽しみはある(話しかけないけど)。

4.本カレンダーとして
 本書の元は、ミシマ社ホームページの「今日の一冊」から出発した企画である。もっとも、ホームページに掲載されたものをまとめたのではなく、本書のためにわざわざ依頼したのだそうだが――。原型がそういうものだから、1日1冊で365日という構成なのだ。
 だが、日付と本との間にそんなに強いつながりがあるわけではない。8月15日が戦争関係の本というわけでもないし、12月25日がクリスマス関係の本でもない。しかし、8月16日の本は百田尚樹の『永遠の0』だし、12月25日の本はキリスト教関係である(遠藤周作の『沈黙』)。日付と本の関係が微妙にずれている。隠された関係を探してみるのもいいかもしれない。
 もちろん、自分の誕生日の本、今日の本――、それだけで、何かのきっかけにはなるかもしれないし。

 というわけで、1冊で何回も楽しめる「本の本」なのだった。

Thebooks

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