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2016年3月 6日 (日)

ポケットに外国語を

ポケットに外国語を/黒田龍之助(ちくま文庫,2013)
『ポケットいっぱいの外国語』(2007)の改題文庫化。意外にも著者の初めての文庫本になるそうだ。
 タイトルどおり、外国語や言語がテーマのエッセイ集。あとがきによれば、中のいくつかは「論文のつもりで書いた」そうなのだが、著者には悪いが、どれもエッセイとしか思えなかった。「読者がそれに気づかないとすれば、それは著者の文体がダメなせいである」と書いてくれているが、こっちが興味本位でしか読んでないのも理由だろう。

 内容はおおまかなテーマごとに、5章に分かれている。
 第1章「鏡の国の外国語」は、主に個別の外国語のエピソードや勉強法などにまつわる短いエッセイ17編を集めたもの。この章だけで本書の3分の1強を占める。それぞれのタイトルも「リトアニア語の夏休み」、「ウクライナ語のウォッカ」、「スウェーデン語の挿絵」など、特定の外国語を含むものが多い。ちなみに、17編のメインテーマになっている言語は、さすがにスラブ言語学が専門だけあって、ロシア語が一番多く7。次が(意外にも)英語で4。残りはリトアニア語、ウクライナ語、スウェーデン語、フランス語、ベラルーシ語、ペルシア語&タジク語(ほとんど同じ言葉)が各1。偏ってるといえば、とんでもなく偏っているが、そこがこの著者らしい。どの言語のことを書く時も、なんだか楽しくて仕方のない雰囲気が伝わってくる。
 第2章「レトロな語学も悪くない」は、外国語学習についてのエッセイ8編。章題になっている「レトロな語学も悪くない」は、自分が外国語を身につけた外国語学習法についての短いエッセイ。要するに、読書が基本、DVDの映画も有用、とそんな感じ。「ふつうである。つまり、昔からの方法にもっと自信をもっていい」のだそうだ。ただ、本人が外国語が本当に好きであるというのが、最低条件だと思う。
 第3章「言語学どうでしょう」は、言語学や言語教育一般にかかわるエッセイ(論文?)5編。言語学とは何をする学問なのかを初心者向けに解説したり(「にぎやかな言語学」)、言語の多様性とは何かと、方言を例にひいたりしながら説明したり(「言語多様性について」)、高校で英語を英語で教育するという方針を批判したり(「英語は英語で?」)。
 第4章「わたしが大学教師を辞めたワケ」は、新編雑記的ネタのエッセイ13編。といっても、著者の日常にはやはりどこまでも外国語や外国事情がついてまわる。チェコの料理について(「スラヴ「モツ煮込み」考」)、通訳の難しさについて(「通訳はつらいよ」)、教え子たちについて――など。章題になっている「わたしが大学教師を辞めたワケ」は、どんな暴露話かと思ったら、そんなたいしたことは書いてないのだが(本人曰く「円満退社」なのだそうだ)、やはり、大学で語学で教えるのは、いろいろと著者には向いてない面があったようだ。
 第5章「ことばへの異常な愛情」は、エッセイ1編だけからなる。収録された中で一番長い。著者の講演が元になっていて、内容はほぼ自伝みたいなもの。タイトル通り、外国語への愛情があふれている。それを言えば、本書全体がそうなのだが。

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