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2017年5月28日 (日)

世界の名前

世界の名前/岩波書店辞典編集部編(岩波新書,2016)
 世界各地の人名のつけ方や歴史、人名にまつわるトピックを、言語、歴史、文学などの専門家たちが分担執筆。1テーマあたり2ページ程度の短い記事が100編収録されている。さらに全体を10章に編成。
 NHKが人名に関するバラエティー番組を始めるくらい、このテーマは人の関心をひくものらしい。本書も古今東西の名前の話題を集めていて飽きさせない。

 1「古代のひとびと」(7編)。最初は古代から。古代インド、ヒッタイト、古代エジプト、ヘブライ、古代ギリシア、ローマなど。中には、プトレマイオス王朝の王名、などという非常に狭い範囲のテーマもある。
 2「名前の仕組みと形」(14編)は、名前の構成要素、長さ、順番、発音といった外形的な特徴について述べた記事を集める。ベトナム、カンボジア、チベット、スリランカ、アルメニアなど。
 3「姓はどこから?」(15編)。日本人から見ると姓はあって当たり前のように思えるが、世界には姓を持たない民族もけっこういる。この章の最初「姓ができない事情」では、姓を持たないビルマ語の命名事情を解説。姓を持たない文化としてモンゴル語やアラビア語の名前、20世紀になって姓が作られたトルコの事情など。オランダ、ドイツ、フランスなどの名字の由来に関する記事もあるが、なじみの深い国でも名前については知らないことが多い。
 4「歴史を遡る」(10編)。歴史上の名前、あるいは歴史と深いかかわりを持つ名前について。ローマ教皇の名前やビザンツ帝国の名前、アステカやインカ帝国の名前など、ユニークなテーマが目立つ。他にエジプトやカザフスタン、スコットランドの名前など。
 5「名付けの想い」(14編)。この章は姓ではなく個人名が中心。ラオ語やベンガル語では正式名を公式の場でしか使わず、普段は通り名で呼び合うという、昔の日本みたいな習慣が今も続いている。イラン、アフガニスタン、デンマーク、ノルウェーなどでの名づけのトレンドについてもわかる。
 6「いくつもの名前、変わる名前」(12編)も、前の章と似たテーマ。正式名と通称の使い分けの話がここにも出てくる。タイ語(ラオ語と非常に近い)とアメリカに移住したベンガル人の話なので、中身もだいぶ重なっているが…。アイヌ語の命名や琉球の屋号についての記事などは、国内なのに全然知らなかった話。また、独裁政権時代に名乗ることが許されなかったカタルーニャ語やバスク語の名前、アメリカの名前とマイノリティなど、政治と名前にからむ話が目立つのもこの章の特徴。
 7「歴史の中の名前」(10編)。歴史と名前に関するテーマはこれまでにも数多く出てきている。このへんになると、分類に困って無理やりまとめたのかという気もする。中身が面白くないというわけではないが。満洲族の名前、シェイクスピア劇の名前、カリブ海諸島の名前、ハワイ国王の名前、イギリス王家の名前など。
 8「多言語社会では」(6編)。香港人が使っている英文名、台湾少数民族の名前など、ほとんどがアジアの話。ただ一つ出てくるヨーロッパの話題は、ベルギー国王がオランダ語で署名するかフランス語で署名するかという問題にまつわるもの。先代まではどちらの言語でもほぼ同一の綴りだったが、現国王フィリップ(オランダ語Filip/フランス語Philippe)に至ってにわかにこの問題が出てきたのだそうだ。カタカナだと区別がないから、日本語で署名したら問題ないか…(無理)。
 9「名前にまつわる習俗」(5編)。これまでの文章も、ほとんどがある意味「習俗」の話である。いよいよ分類のネタが尽きてきたか。ルーマニアの「名前の日」、マリの命名法、アメリカの正式名とニックネームなど。
 10「神話・伝承の中の名前」(7編)。この章のみ、実在の人名ではなく、神話やフィクションに出てくる名前を扱っている。インド神話、ギリシア・ローマ神話、北欧神話、カレワラ、マヤ・アステカ神話、オーストラリア原住民の神話。
 そして最後の「想像世界の名前の理屈」は、なんと『ホビットの冒険』や『指輪物語』に登場する名前に関する大胆な想像、というか架空学説。
 古代インドから始まった名前の旅はとんでもないところまで来てしまった。

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