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2018年1月27日 (土)

その他の外国語エトセトラ

その他の外国語エトセトラ/黒田龍之介(ちくま文庫,2017)
 2005年刊『その他の外国語』の増補、文庫化。今回の文庫化にあたって、タイトルに「エトセトラ」が付加された模様。
 序文によれば、これが著者の初めてのエッセイ集だったそうである。
 以前に本ブログで紹介した『外国語の水曜日』(2013年12月8日のエントリー)は2000年に出た本で、実に面白い読み物だったが、これは言語教育についての本であって、エッセイ集のつもりではなかったらしい。
 他にも著者の本は本ブログに何回か登場しているが、著者自身がエッセイ集と認めるのは、多分『ポケットに外国語を』(2016年3月6日のエントリー)くらいなのだろう。

 それはともかく、本書は気楽に読めるエッセイ集でありながら、言語学のエッセンスと、外国語(特にスラブ系言語)への愛がつまっている。
 内容は全4章からなり、各章のタイトルに必ず数字が入っている。
 第一章は「三十三文字の日常」。ロシア語のアルファベットは33文字。ロシア語を中心に、外国語を巡るさまざまなテーマのエッセイを集めている。ただ、読んでもロシア語に詳しくなるわけではない。
 各編には、「英語を教えるということ」、「文字の美的機能と意味機能について」など普通のタイトルの他に、ロシア語の見出し語がついていて、その頭文字がΑからЯまで、ロシア語アルファベットの各文字に対応。つまり全33編。なかなか手がこんでいる。
 中には「Ъ」とか「Ы」とか、ロシア語では絶対語頭に来ないような文字もあるが、他の言語から引っ張ってきて無理やり見出しにしている。さすがに「Ь」は、前の文字にくっつけないと意味をなさない記号なので(例えて言えば、日本語なら「っ」とか「ー」みたいな使い方だろうか)、無理だったようだが。
 文章は極めて読みやすいが、外国語をやたらと難しく考える人たちに対しては、時として辛辣な言葉が投げられることもある。

「外国語が難しい」というのは、苦労しながら勉強している人だけに許される、特別なセリフである。(「タイ語は難しいけれど」より p.119)

 この「外国語学習に対してよくある誤解や先入観」に対するきびしい見方は、次の第二章「二十二の不仕合わせ」全体のテーマでもある。
 章のタイトルはチェーホフの『桜の園』から。内容は、「外国語学習二十二の不仕合わせ」として、外国語(英語以外の)を学ぶ(学びたい)人が陥りがちな誤りや間違った思い込みを列挙していく。「英語もできないのに」、「完璧でなければ」、「目指すはバイリンガル」など。
 第三章「外国旅行会話十一の法則」は、法則というより、著者の旅行での体験を、出発から帰国まで場面ごとに書いてるだけのエッセイ。「機内では教科書を」、「ホテルに着くまで」から、「荷造りして帰国へ」まで。古本屋で本を探したり、博物館へ行ったり、普通の観光旅行ではあまり役に立ちそうもない体験談がいろいろ出てくる。
 第四章「十一年目の実践編――チェコ共和国講演旅行記」は、文庫版のみの増補部分。チェコ共和国オロモウツ市のパラツキー大学に招かれて、チェコ語で講演を行った旅の記録。読み物としてはこの章が一番面白かった。

Sonotanogaikokugo

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