南朝全史
南朝全史 大覚寺統から後南朝へ/森茂暁(講談社学術文庫,2020)
2005年刊の単行本の文庫化。著者は南北朝時代の専門家で、中公新書から出ていた『皇子たちの南北朝』という本をずいぶん前に読んだことがある。
本書は、南北朝時代だけでなく、その前後も含めた約300年間の歴史を語るもの。
つまり、鎌倉時代後期の大覚寺・持明院両統の分立に始まり、建武の新政とその崩壊、南朝の成立、南北朝の合体、その後の後南朝の動向と終焉を述べる。さらにその後、最後には戦国時代に入って、伝説と化した後南朝にまで言及している。まさに「全史」である。
ただ、扱う期間が長いだけに、その分本来の南朝についての記述が少なくなっている気がする。早い話が、記述が駆け足。
本書を読んでも、南朝の具体的な姿はなかなかイメージしにくい。史料がわずかしか残ってないらしいから、仕方ないのかもしれないが。
とはいえ、本書を読んでやっとわかったことがある。室町幕府が南朝を力づくで攻め滅ぼさなかった事情である。大覚寺、持明院両統を存続させるというのが、鎌倉時代から続く幕府の方針だった。幕府は、あくまで和議により、両統を合体させることを目指していたというのだ。
南北朝時代後半の一時期、南朝の皇居が住吉大社に置かれていたことがある。あんな平坦な、防御に向かないところに南朝の本拠地があるのが不思議だった。幕府軍が本気で攻めて来たら防ぎようがないだろう。しかし本書を読んで事情がわかった。要するに放置されていたということらしい。
内容は次のとおり。
第一章「鎌倉時代の大覚寺統」は、大覚寺、持明院両統の成立と、対立の開始。自立を目指す大覚寺統(後の南朝)と、幕府に頼る持明院統(後の北朝)という性格の違いがそのころからあったらしい。。
第二章「建武の新政」は、建武政権の統治システムとその限界について。
第三章「南朝の時代」は、歴代南朝天皇の治世と、南北朝の合体までの、南朝略史。
第四章「南朝を読みとく」は、著者の研究成果が一番盛り込まれていて、本書のメインとなる章。組織と制度、地方との関係など南朝の実態について。
第五章「後南朝とその終焉」は、後南朝の活動とその末路を述べる。足利義教が大覚寺統の断絶を決めて、後南朝は消滅の運命をたどる。ただ、戦国時代になって、天正年間の説話に、「南帝の使者」を名乗る鬼が登場するという。説話の中の南朝は、伝説の妖怪みたいなものになってしまったのだ。