とどめの一撃
とどめの一撃/マルグリット・ユルスナール;岩崎力訳(岩波文庫,1995)
ロシア革命後の混乱期を背景にした長編小説(長さから言えば、むしろ長い中編か)。
主人公エリック・フォン・ローモンは、ドイツとフランス、バルト人の血の混じった複雑な家系の持ち主。ドイツで暮らしていたエリックは、母の故郷クールランド(現在のラトヴィア)に行き、反ボルシェヴィキ義勇軍に身を投じる。
エリックの母親はクラトヴィツェという町が故郷で、土地の貴族ド・ルヴァル伯爵の従姉妹だった。伯爵家のコンラートとソフィーの姉弟とエリックは、少年時代の一時期をともに過ごしたことがあった。
義勇軍の司令部でコンラートと再会したエリックは、彼とともに最前線と化したクラトヴィツェに向かう。伯爵の館は義勇軍の根拠地と化していて、そこでエリックはソフィーに再会する。
普通なら、ここからロマンスが始まりそうなものだが、全然そうはならないのがこの小説。エリックとソフィーの間の、愛憎が混淆する心理の動きの複雑さは、さすがに主流文学である。
エリックとソフィーの心はすれ違い続ける。ついには、エリックはソフィーの心を決定的に傷つけてしまう。ソフィーは館を飛び出し、いずこともなく姿を消す。
やがてボルシェヴィキの攻勢が強まる中、エリックの部隊はクラトヴィツェを放棄して移動する。戦いの中でコンラートは戦死。捕虜にしたボルシェヴィキの小部隊の中に、赤軍の女兵士となったソフィーがいた。
反ボルシェヴィキ軍には捕虜をとる余裕はなく、捕らえた敵兵士はすべて銃殺されることになっていた。ソフィーは自ら、エリックを自分の処刑人に指名する…。
――というような、表面的に見ると非常に殺伐とした話。荒涼としたラトヴィアの大地に展開する愛と死のドラマは、日頃気軽な小説ばかり読んでいる人間には、なかなか歯ごたえがありすぎるのだった。とはいえ短いのですぐに読めることは読めるのだが。本当に「読めて」いるのかどうかは自分で怪しい気がする。