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2020年10月26日 (月)

黙読の山

黙読の山/荒川洋治(みすず書房,2007)
 このブログに登場するのは2回目の、詩人荒川洋治。
 前回取り上げたのは『本を読む前に』という書評・読書エッセイ集(2008年11月27日のエントリー)。
 本書も、本と文学を主なテーマに書かれたエッセイを集めている点では似たような本。ただ本書の場合、1編あたり2~3ページのごく短いエッセイが多いので、収録されている数は58編と多い。発表媒体は新聞・雑誌などさまざま。
 書名は同題のエッセイから。「山」という字を普段は黙読しているので、話す時に山の名を呼ぶ時、読みが「やま」なのか「さん」なのか迷う、という何でもない話。ただ、著者がこれまで黙読してきた膨大な本の山、という意味もこめられているのだろう。
 この人の本に関する文章は、平易な文章でありながら――というか、だからこそ、言及されている本を読みたい気にさせる効果に富んだ名品が多い。
 時にはわずか2、3行の文章で、その本に対する関心と興味をかきたてる。
 特に、巻末近くに掲載されている「おもかげ」というエッセイ。著者の個人展覧会に出品した、自分の蔵書の中の思い出の本を列挙しているが、それにつけられたコメントがいい。例えば――。

□草野心平『わが青春の記』(オリオン社・一九六五)。詩と青春の記録。詩を生きることは、つらい。でも楽しそうだ。そう感じた。
□保田與十郎『日本の橋』(講談社学術文庫・一九九〇)。美しい措辞と妖しい思想が奏でる「日本」の名作。学生のとき、講談社の著作集で読む。
□村上一郎『日本のロゴス』(南北社・一九六三)。激越な評論が心をとらえた時期。わけても愚直に「かなしみ」を生きる村上一郎の文字は印象を残した。

 一見なにげないようでいて、簡明で的確な言葉の選び方。
 他にも気になる本がぞろぞろ出てきてきりがないのである。本の選び方というより、言葉の選び方がうまいのだろう。本に輝きを持たせる言葉の力である。
 本に関するブログを書いてる身としては、こんな風に本を表現できる言葉が持てれば、と切実に思う。

Mokudokunoyama

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