遊民の系譜
遊民の系譜 ユーラシアの漂泊者たち/杉山二郎(河出文庫,2009)
1988年青土社刊の文庫化。
あの青土社から出ているのだし、読む前はもっと学術的もしくは文学的な本かと思っていたが、実はなんともユニークなテーマと語り口の読み物だった。
章番号はないが、全体が19の章に分かれていて、数章ずつでひとつのテーマを追っていく形になっている。
まず最初のテーマは「遊行」。飛鳥時代の遊行僧道昭にまつわる伝承の話から始まり、行基の遊行集団、寺社の祭礼に姿を現す漂白の芸人たち――。そんな古代日本の遊行の徒たちについての文献引用や考察。
次は「方術」。話は中国へ飛んで、西域から来た幻人や僧たちの不思議な術の話が次々と展開する。例えば、4-5世紀の高僧として有名な仏図澄も、ここでは超能力者として登場するのだ。「よく神呪を誦し鬼神を使役した。麻油に胭脂を混ぜて掌に塗ると千里外の事象が掌に映って、さながら対面しているかのようだ」と。また、道士と密教僧の術比べなんて話もある。
次の「飛鉢」は、「信貴山縁起絵巻」に代表される、鉢を飛ばす秘法がテーマ。この不思議な術の伝承を内外に追い、その正体を追う。
そして、本書最大のテーマと言うべき「ジプシー」。中東のジプシーに始まり、日本のジプシー「傀儡子」、朝鮮のジプシー「揚水尺」について、その起源や歴史を考察する。中国や日本の傀儡戯の技の数々も紹介している。
続いては「民間芸能」。日本の今様、田歌、神歌、中国の雑劇など、これはわりと普通の民俗的テーマ。
最後にテーマは再び「ジプシー」に戻り、イスラム世界からヨーロッパにかけてのジプシーの歴史を語っている。
全体として、世界の各地に存在していた、托鉢、奇術、芸能などを生業とする漂泊の人々の姿を伝承や文献の中に追った本ということになる。
ただ、少々まとまりがない気はする。それと、肝心な部分で自分自身の文章ではなく、先人の著作の引用で替えている傾向がある。それだけ多くの文献を踏まえているということなのだろうが。
とはいえ、思ったより柔らかめの文章で(ところどころワル乗りしている)、興味をかき立てられるところが多い、つまりはブログ主好みの本だった。
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