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2020年11月23日 (月)

幻綺行

幻綺行 [完全版]/横田順彌(竹書房文庫,2020)
 明治時代、自転車で世界一周無銭旅行に挑戦した中村春吉を主人公にした秘境冒険SF。『SFアドベンチャー』に連載された連作短篇をまとめたもの。1990年に単行本が出ているが、その時には収録されてなかった2編を追加した「完全版」。
 主人公中村春吉は実在の人物がモデルだが、無謀な冒険に乗り出すだけあって、本書での性格はバンカラで向こう見ずで衝動的な熱血漢。後先考えずに行動する。はっきり言ってバカである。本当にこんな人物だったかどうかはわからない。
 この中村春吉がパレンバンで出会った石峰省吾と雨宮志保とともに、世界各地で怪物たちと戦うという話。だから個々の話は完全なフィクション。
 春吉の一人称(「我輩」)で語られる大時代な文章が、いかにも明治人らしい思考、そして語彙にあふれていて、実に内容によくマッチしている。

「聖樹怪」
 自転車世界一周中の春吉は、パレンバンで娼館から志保を救い、山田長政の秘宝を探す石峰青年と出会う。その秘宝があるという密林の奥で彼らが遭遇したのは、人間を操って受精の道具に使ったあげく食ってしまう怪植物。
「奇窟魔」
 宝探しを続ける石峰と別れた春吉と志保は、ネパールの奥地で若い娘を連れ去る謎の寺を探索。そこでは僧たちが、さらってきた娘たちを頭だけが動物の奇怪な姿に改造していた。春吉と志保は、(都合よく)再登場した石峰と協力して悪僧たちを退治する。
「流砂鬼」
 志保と石峰を道連れにして春吉の世界一周は続く。自転車でペルシャの荒野を横断する三人。当然無事にすむわけがなく、大砂嵐に襲われ、地下の大洞窟に落ちる。その奥には高度なテクノロジーを思わせる遺跡があった。そこへ襲ってくる砂でできた怪魔像。春吉がこの強敵を撃退する手段がすごい。
「麗悲妖」
 しばらく一人で行動していた春吉はロンドンで志保と再会する。ペテルブルグに友人を訪ねて行ったという石峰を追って、二人はロシアへ。石峰の訪問先は松尾という日本人と、その新婚の妻エヴグーニヤだった。このエヴグーニヤの挙動が不審、実は彼女は魔物と化していた…。収録作中唯一、秘境ものではない。
「求魂神」
 南アフリカに向かう途中、マデイラ島に滞在する三人。島の高山ピコ・ルイボ山に登山中、黒い影にのみこまれる。気づくとそこは地上に着陸していた宇宙船の中。今度の敵は、地球人の魂を食料とする宇宙人なのだった。収録作中一番SFらしいSFで、珍しく文明批評的な終わり方をする。それはいいのだが、「流砂鬼」の怪魔とこの宇宙人の弱点が同じというのは、ややワンパターンなのでは。
「古沼秘」
 南アフリカに着いた三人。大蛇に襲われたりダイヤ鉱山を訪れたりいろいろあった後、モザンビクからザンジバルへと向かうことに。ところが途中、現地人が恐れる沼のほとりで露営していた時、やっぱりというか怪物に襲われる。今度の相手は巨大な蟹。ということで、最後のエピソードはごく単純な怪物ものだった。あるいは原点に戻ったと言うべきか。

Genkikou

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