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2020年12月 8日 (火)

血と薔薇のエクスタシー

血と薔薇のエクスタシー 吸血鬼小説傑作集/幻想文学編集部編(幻想文学出版局,1990)
 国産吸血鬼小説のアンソロジー。Amazonで買うと高いが、普通の古書サイトだとそんなにしないようである。(ブログ主はもちろん普通に古本で買った)
 同じテーマのアンソロジーとして、本ブログでずいぶん前に『血 吸血鬼にまつわる八つの物語』を取り上げたことがある。(2012年11月15日のエントリー)
 そっちの方はホラー/SF寄りのセレクションだったが、それより10年前に出版されたこちらは、さすがに当時の『幻想文学』誌がからんでいるだけあって、やや文学寄り。作者も、エンタメ系よりは文学史に名を残すような作家が目立つ。
 そして、吸血鬼には欠かせない「耽美」の色濃い小説が多い。中には、そんなものと関係ない、あっけらかんとしてポップな新井素子の作品みたいなのもあるが。
 収録作は16編。印象的な作品をいくつか挙げてみる。

 最初はいきなり三島由紀夫。「仲間」は、吸血鬼めいた闇の眷属を象徴的に描く作品で、5ページしかない掌編だが、密度は濃い。
 倉橋由美子「ヴァンピールの会」は、湘南のレストランに自らを「ヴァンピールの会」と称して集う上流の女性たちの物語。フランス風の洒落た、そして退廃的な雰囲気が横溢する怪奇譚。
 須永朝彦「森の彼方の地 」は、「ヴァーミリオン・サンズ」と吸血鬼を結びつけるという離れ業を見せる。作者の吸血鬼愛と、そしてJ・G・バラードへのオマージュに満ちている。
 赤川次郎「吸血鬼の静かな眠り」は、赤川次郎の暗黒面を見せつける怪奇譚。外国人が住んでいたという家を別荘として借りた家族を襲う、怪奇現象とその果ての惨劇。
 新井素子「週に一度のお食事を」は、本書の中では異色作。世の中の人間のほとんどが吸血鬼になってしまうが、精神面は前と同じで、みんなきちんと暮らしているという、実に明るい吸血鬼小説。
 日影丈吉「女優」。ベテラン女優の弟子になった若い女優が、なぜか次々と病気に倒れる。女優は吸血鬼なのか、結局疑惑は疑惑のままで、最後まで真相はわからない。このあたりになると、もはや吸血鬼という言葉は象徴的に使われているように見える。
 戸川昌子「黄色い吸血鬼」も、入院患者から血を抜き取って売る悪徳病院を舞台にした話で、「吸血鬼」は、完全に比喩的な意味で使われている。しかし本物の吸血鬼よりたちが悪いのだった。
 岸田理生「ちのみごぞうし」は、吸血鬼の子どもとして生まれた少年が、父を求めて旅をする話、らしい。全編が象徴と言葉遊びとパロディで構成された、特異な作品。

 他に菊地秀行、星新一、岡本綺堂、都筑道夫、種村季弘、中井英夫など、名だたる作家の名が並んでいる。なかなか贅沢なアンソロジーなのである。

 そんな中でマイベスト作品を選ぶのもなかなか難しいが、もっとも正統派の吸血鬼小説ということで、「吸血鬼の静かな眠り」とする。

Chitobara

 

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