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2021年1月 6日 (水)

ラッフルズ・ホーの奇蹟

ラッフルズ・ホーの奇蹟(ドイル傑作集5)/コナン・ドイル;北原尚彦、西崎憲編;北原尚彦ほか訳(創元推理文庫,2011)
 以前に本ブログで、この創元推理文庫版<ドイル傑作集>の2冊目にあたる『北極星号の船長』という短編集を取り上げたことがある(2013年8月30日のエントリー)。そっちの方は怪奇小説を集めた一冊だったが、本書はドイルのSF短篇を中心に収録している。
 中身は知らない作品ばかり8編。SFだけでは一冊分に足りなかったのか、どう見てもSFとは呼べないような作品も入っている。

「ラッフルズ・ホーの奇蹟」
 全体の半分近くを占める長い中編。イングランド中部の田舎町タムフィールドに突然やってきた謎の大富豪ラッフルズ・ホー。無限に湧き出る富を惜しげ無く人々に分け与えるが、そのために地域の人々は堕落し、人生を狂わせる。ラッフルズ・ホーと偶然知り合ったロバートとローラの兄妹を通して、ホーの慈善とその挫折を描く。ホーの富の源泉が、元素変換技術――文字通りの錬金術だったというところがSF。
「体外遊離実験」
 科学者と助手の青年が魂の離脱実験をしたところ、二人の心が入れ替わってしまう。二人がしばらくの間それに気づかず行動したために大混乱が起きる、というドタバタ劇。しかし自分の体でないことに、なぜすぐ気づかないのか不思議。
「ロスアミゴスの大失策」
 世界最大の発電所を誇るロスアミゴスの町で、一人の悪人が死刑になる。処刑方法は、発電所の最大電力を使った電気ショック。しかし電気エネルギーを吸収した男は不死身になってしまうという、ブラックなコメディ。本作が発表されたのは1892年で、アメリカで初めて電気椅子による死刑が執行されてから2年後。発表当時は時事ネタだったのだ。
「ブラウン・ペリコード発動機」
 飛行機械を巡る発明家二人の争いの果てに、一人が殺される。せっかく完成した飛行機械は、死体を人知れず処分するために使われるのだった。1892年の作品で、ライト兄弟による飛行機が初飛行に成功する11年前。しかし本作に出てくるのは羽ばたき式飛行機。
「昇降機」
 600フィートの高さにそびえる展望塔に昇って行く昇降機。しかし気の狂った技師が昇降機を途中で止め、ワイヤを切ろうとする。乗客の必死の脱出劇を語るスリリングな話。しかしSFではない。
「シニョール・ランベルトの引退」
 嫉妬深い男が、妻との浮気相手だと疑ったオペラ歌手の喉を手術で傷つけ、声をだいなしにしてしまう。それだけの話。医学がからむ話ではあるが、SFではない。
「新発見の地下墓地」
 考古学者が、自分の発見したローマの地下墓地に、恋人を奪った男を誘い入れ、二度と帰れない迷宮の奥に放置するという復讐譚。これも一種のミステリであって、SFではない。
「危険!」
 1914年、第一次大戦の勃発直前に発表された未来戦記。潜水艦による通商破壊作戦の脅威を警告している。わずか8隻の潜水艦しか持ってない小国とイギリスが戦争し、イギリスに食糧を運ぶ輸送船が次々と撃沈される。結局、兵糧攻めでイギリスがギブアップしてしまうのである。現実には、第一次世界大戦時のイギリスはドイツのUボートによる津相破壊作戦に耐え抜いている。いくらなんでもそんなことになるはずがないのである。しかし話としては面白い。

 というような内容で、SF短編集というにはやや疑問が残るのだが、バラエティに富んだ作風が楽しめるという点では、値打ちがあるかもしれない。マイベストは「体外遊離実験」。ドイルがこんなマンガみたいな話を書いていたのが意外。

Raffleshaw

 

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