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2021年2月 3日 (水)

大航宙時代

大航宙時代 星海への旅立ち/ネイサン・ロ-ウェル;中原尚哉訳(ハヤカワ文庫SF,2014)
 宇宙SFである。タイトルだけ見ると、波瀾万丈のスペースオペラのように見える。だが、実際の話は、宇宙交易船の下級船員たちが、個人に許可された枠内でせこい商売をしているだけという話。邦訳タイトルが盛りすぎもいいところ。
 ネリス星で母親と二人暮らしをしていた18歳のイシュメール・ホレイショ・ワンは、母親の事故死により、住むところも収入も失ってしまう。ネリスは企業の所有する惑星で、会社と無関係になってしまったイシュメールの居場所はないのだ。
 惑星外に働き場所を探すイシュメールは、たまたま宇宙港に入港していた貨物船ロイス・マッケンドリックの最下級船員に採用される。配属場所は、船内の食堂の司厨補助員。
 というわけで、宇宙船のコック見習いになったイシュメールのサクセスストーリーが始まる。船員の最下級クラスは「四半株」で、新人のイシュメールも当然このクラスになる。収益の分配が四分の一人前ということ。これが原題("Quarter Share")にもなっている。出世したら、もちろん分け前が増えていくのである。
 宇宙船での生活に突然放り込まれたイシュメールだが、抜群の適応力を発揮して、船内での評価をどんどん上げていく。うまいコーヒーを淹れたり、資格試験に挑戦したり、寄港地のフリーマーケットでの個人取引を組織化したり――。要するにただそれだけの話である。冒険も異変も動乱も宇宙の神秘も何もなし。
 イシュメールの周囲にいる同僚も上司もいい人ばかりで、船員物語にありがちないじめや体罰や陰湿な人間関係は全然ない。イシュメールのやることなすことうまく行く。本人の才覚だけでなく、周りの人間がどんどん手助けしてくれるのだ。
 こんなに波乱なく何もかもうまくいくSFというのも珍しい。
 それで何が面白いのかという気もするが、少なくとも、それほどつまらないという印象はない。現に、『SFが読みたい!2015年版』のアンケートを見ると、本書を年間ベスト5のひとつに挙げている評者も何人かいるのである。少なくとも、読みやすいことは間違いない。続きが読みたいかというと微妙だが…(ちなみに続編はまだ翻訳されていない模様)。

 なお、本書は"Trader's Tales from the Golden Age of the Solar Clipper"6部作の第一作。 本書"Quarter Share"に続く第2作以降のタイトルは、"Half Share"、"Full Share"、"Double Share"、"Captain's Share"、"Owner's Share"となっていて、タイトルを見るだけでイシュメール君がどんどん出世していくのがわかる。宇宙版『課長島耕作』みたいなものか。

Quartershare

 

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