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2021年3月 3日 (水)

言葉人形

言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選/ジェフリー・フォード;谷垣暁美編訳(東京創元社,2018)
 中・短篇13編をセレクトした日本オリジナル短編集。
 基本的にどの作品もファンタジーなのだが、現実に近い話から、幻想的要素がだんだん多くなるように配列しているのだそうだ。最後の方の数編はほぼ異世界ファンタジーになる。

「創造」
 好奇心から、森で集めた植物や石から「人間」を作った少年。キャヴァノーと名づけられた「人間」は行方をくらます。設定はホラーに見えるが、そこから父と子の物語に展開するところが普通のファンタジーと違うところ。。
「ファンタジー作家の助手」
 異世界「クリーゲンヴェイル」を舞台としたシリーズものファンタジーで売れている作家アシュモリアンのアシスタントになった女性メアリー。アシュモリアンは実際にクリーゲンヴェイルを幻視して見たままを物語にしていたのだが、ある時クリーゲンヴェイルが見えなくなる。メアリーはアシュモリアンに代わってクリーゲンヴェイルに入り込む。ファンタジーのパロディに見えるが、もっと深い。
「〈熱帯〉の一夜」
 バー「熱帯」を久しぶりに訪れた「私」は、少年時代の友人、不良のリーダーだったボビーと再会する。「熱帯」のバーテンダーになっていたボビーは「私」に、呪いのチェスの駒にまつわる昔話を聞かせる。収録作中では幻想性が一番薄い。
「光の巨匠」
 光を操る巨匠ラーチクラフト。その技術は「光の錬金術によっておぞましいものを美しく、使い古されたものを新品同様に、物質的なものを精神的に、偽りを真実に変える技」と描写されている。ラーチクラフトはインタビューに訪れた新聞記者に向かって、かつて見た生々しい夢の話をする。
「湖底の下で」
 湖底の下の洞窟に「薔薇色の硝子玉」が鎮座していて、その中には「一度だけ語られたが誰にも聞かれなかった物語が渦巻いている」。「私」が語るのはその硝子玉の中の、エミリーとヴィンセントという少女と少年の物語。
「私の分身の分身は私の分身ではありません」
 語り手「私」は自分の分身(ドッペルゲンガー)と出会う。この物語の世界は分身がいるのが普通らしい。分身の言うことには、分身の分身「ファンタスマ=グリス」が出現したが、それは凶悪な存在で、殺さなければならないという。気乗りしないまま、「私」は分身の計画に協力することになる。アクションもあり、収録作中一番わかりやすく読みやすい。
「言葉人形」
 作者の分身らしいジェフ・フォードと名乗る主人公は、ある日、道路脇の草に埋もれた看板に気づく。「言葉人形博物館」。その家を訪れると、現れた老婦人が、かつてこの地方にあった、農民の子どもが農作業の間集中力を保つための「野良友だち」という風習について語る。それは言葉だけで構成された架空の人形だった。そしてさらに彼女は、「野良友だち」の儀式が終わるきっかけとなったおぞましい事件について語るのだった。
「理性の夢」
 ここから後の作品は異世界の物語。大学都市ベルダンチの光の研究者アマニタス・ベラルは、光を減速させる実験に打ち込む。最終的に彼が光を静止させるための媒体としたのは、人間の精神だった。
「夢見る風」
 リバラの町には毎年<夢見る風>が通る。<風>は人間の体を含め、あらゆるものを変形させる。「混沌と雑多、現実全体のしっちゃかめっちゃか状態」が生じ、その作用は二、三時間続く。災厄とも言える<風>だが、なぜかある年から到来しなくなる。その時、人々は――という寓話めいた話。
「珊瑚の心臓[コーラル・ハート]
 この話はヒロイック・ファンタジー風。触れるものすべてを珊瑚に変える魔剣「珊瑚の心臓」(持ち主の異名でもある)を持つ剣士イズメット・トーラーが主人公だが、この男、果てしなく殺戮をくり返す殺人鬼。ある城に招かれたトーラーが、復讐の罠にはめられるという、実に殺伐とした話。
「マンティコアの魔法」
 王国を荒らしていた最後のマンティコアが仕留められた時、魔法使いワトキンはその死骸を前に、弟子の「ぼく」にすべてを記録するように命じる。人とマンティコアの奇妙なつながりが物語の核になっている。
「巨人国」
 人間を鳥籠に入れて飼う巨人が住む国。明らかに異世界だが、この世界とじかにつながっているらしい。<犬の背骨>という山地を通ると、アメリカのどこかから巨人国へ行けるらしいのだ。巨人国と宿命的なつながりを持つ女性アンナの不可解な遍歴が主なストーリーだが、話が奇妙な具合にジャンプして、不条理さに頭がよじれそうになる。ひょっとして傑作かもしれないという気もする。
「レパラータ宮殿にて」
 元海賊のインゲスが一代で築き、はぐれ者たちが集まって政府を形作る王国で、すべての人々から愛されていた王妃ジョゼットが死ぬ。壮麗なレパラータ宮殿は悲しみに包まれ、絶望した王は生きる力を失う。魔術師めいた老治療師が呼ばれて王の心を救うが、それには大きな代償が伴っていた。

 複雑な構成と予想のつかない展開、そして眩惑的な語りの技巧を駆使した精巧な文章が特徴。ファンタジーとかSFとかのジャンルを超越した作家の一人だろう。例えば、ルーシャス・シェパードやケリー・リンク、エリック・マコーマックあたりが似た作風と言えるだろうか。
 マイベストは「レパラータ宮殿にて」。次点は「巨人国」。

Kotobaningyou

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