乱世に生きる
乱世に生きる 歴史の群像/中村彰彦(中公文庫,2001)
この著者の本は、2年ほど前に本ブログで『武士たちの作法』という歴史エッセイをまとめた本を紹介したことがある(2019年3月25日のエントリー)。
そちらの本は、戦国時代と幕末をテーマにしたエッセイが中心だったが、本書の場合は、平安時代から昭和初期まで、扱う時代は幅広い。「群像」というサブタイトルが示すとおり、大半が歴史上の有名無名の人物をテーマとするエッセイ。『武士たちの作法』を読んだ時は、この著者の本領は人物エッセイにあると思ったが、その印象を裏づける内容だった。
時代別に4部構成になっている。
Ⅰ「武将たちの時代へ」は、平安末から戦国時代までの人物を取り上げている。タイトルはすべて人物名で、待賢門院璋子、藤原秀衡、足利尊氏、板垣信方、武田勝頼、毛利元就、長宗我部盛親、直江兼続。
Ⅱ「江戸を生きる」は、江戸時代初期から中期。「北政所・淀殿」、「徳川家康」、「真田幸村」など、やはり人物エッセイが中心だが、それ以外の、関ヶ原合戦史や尾張藩の忍者集団についての珍しい記録もある。
Ⅲ「幕末の人と事件」は、人物というより出来事を中心とした文章が多い。。「ドキュメント攘夷決行」、「ドキュメント長州征討」、「薩長同盟と王政復古」、「徳川慶喜」、「新撰組隊士・斎藤一のこと」、「沖田総司は黒猫を見たか」、「幕末受難の家老たち」。
Ⅳ「明治の気骨・大正の夢」は、明治以降の人物を扱っている。後の方になると政治家や軍人ではない民間人が主役になるのだが、歴史上の有名人物よりも、こっちの方が面白い。知らないからこそだろう。「佐川官兵衛討死の光景」、「明治顕官たちの「那須野ヶ原」開拓物語」、「榎本武揚と福島安正」、「島村速雄」、「秋山真之」、「松江春次」(サイパン島の砂糖王)、「松旭斎天勝」(一世を風靡した女性マジシャン)、「ラグーザお玉」(イタリアで活躍した女性画家)。
歴史上の人物や出来事についての見解は実にオーソドックスで、伝統的な説を出るものではない。本業の歴史学者ではないのだから、それでいいのだろう。独創性はあまり感じないが、題材の選び方や、限られた文字数で容量よくまとめる腕は職人の業というべきである。