4月に読んだ本から(その1)
ぽんこつ喜劇/浅暮三文(光文社,2008)
前に紹介したこの著者の『実験小説 ぬ』(2007年11月30日)は、異様な発想が山盛りの作品集だったが、この本もその延長線上にある。というか、『ぬ』の第一章で多用されていた、「記号または図と文章の組み合わせ」というパターンを徹底してつきつめた作品集である。
本書は全十二話からなるが、基本的にどの話も、ページの上に何らかの図か図式化されたテキスト、あるいは両方の組み合わせが表示してあり、その下に、関連した文章という形式をきっちりと守っている(第六話「八枚の石」だけは、右と左のページという組み合わせだが)。この形式で物語を作っていくのだから、ある意味すごいといえばすごいが...。
ページ上部にあるのがどんなものかというと、例えば、第一話「プロローグ」では、アイデアメモ、第四話「十指相関図」では、指をさまざまな形に突き出した手の写真、第五話「星を巡る言葉」では、星座のシンボル(下にかかれた文章は、その星座の運勢占い)、第七話「博士の事件簿」では、死体発見現場の床に書かれる、死体の輪郭をなぞった線、第九話「海へ」では、意味不明のメッセージ、第十二話「エピローグ」では、この本そのものの使用説明、といった具合である。
ひとつひとつの作品を見れば、おもしろい発想もある。例えば、「星を巡る言葉」など、一見したところ単に星占いが書いてあるだけだが、読んでいくうちに、いつの間にか宇宙戦争の話が浮かび上がってくるし、「こちら相談室」(第八話)は、全体としてのストーリーはないが、人生相談の形式を使った童話や名作のパロディを限られたスペースにつめこんでいる。「海へ」の意味不明のメッセージの連続もおもしろいのだが、これは『ぬ』に収録された「喇叭」と同じパターンである。
本そのものに仕掛けを散りばめたり、作品の外枠にSF的な設定を持ち込んだり、細工はいろいろ施しているが、結局、『ぬ』を超えてない気がする。というか、どう考えても二番煎じである。
あまり小細工をせずに、もっと形式自体の目新しさを追求してほしかった。
とはいえ、単体としておもしろい作品がいくつかあったのは間違いないので、ベスト3をあげるなら、異色のSF(?)「星を巡る言葉」、あまりのくだらないアイデアの連発に脱力必至の「プロローグ」、二番煎じながら不条理小説としてはよくできている「海へ」というところか。
壮心の夢/火坂雅志(文春文庫,2009)
今年の大河ドラマ「天地人」の原作者として一躍売れっ子になった感のある火坂雅志。実際には20年以上のキャリアを持つ作家で、著書は50冊を超える。初期の作品は伝奇アクションや歴史ファンタジー的なものが多く、『日本幻想作家名鑑』(『幻想文学』別冊,1991)にも収録されているほどである。この時期の作品には『関ヶ原死霊大戦』なんて、タイトルを聞いただけで読んでみたくなるものもある。
本書の単行本版が出たのは1999年。作家キャリアのちょうど真ん中あたりで、作風も伝奇から普通の歴史小説へと大きく変わりかけた頃である。収録作品は戦国時代から大坂の陣にかけて、織田信長や豊臣秀吉にかかわりを持った人物を主人公とする14篇。
目次には、収録作のタイトルの他に、それぞれの中心となる人物名も書いてある。収録順に、荒木村重、赤松広通、亀井茲矩、木村吉清、蒲生氏郷、神子田正治、前野長康、木下吉隆、今井宗久、神屋宗湛、石田三成、池田輝政、菅道長、和久宗是。
この時代の武将としてよく知られている名前は荒木村重、蒲生氏郷、石田三成、池田輝政くらいか。もっとも、蒲生氏郷の物語「花は散るものを」は、実際には氏郷の死後、西洋から来た家臣、ジョバンニ・ロルレスがその死の真相を知ろうとする話で、本人は出てこない。また、前野長康は秀吉の一番古い家臣の一人で、けっこう重要な人物なのだが、知名度は微妙。今井宗久、神屋宗湛はこの時代を代表する政商たちだが、武将ほどは知られてないだろう。他は、全然聞いたこともない名前がいくつかある。
総じて、どちらかというとマイナーな人物が主である。だが、短篇歴史小説は、マイナーな人物を主人公にする方がむしろおもしろいことが多いので、これはむしろ歓迎すべきことなのである。
有名無名の差はあれ、主人公たちはいずれも、熱い思いを胸に秘めている。象徴的なのが、収録作の2番目と3番目にあたる「桃源」と「おらんだ櫓」。「桃源」の主人公赤松広通は儒教の教えにのめり込み、地上に理想郷を作ろうとするが、亀井茲矩の讒言で切腹する羽目になる。次の「おらんだ櫓」の主人公は、前の作品で「邪まな男」と呼ばれたその亀井茲矩。彼は彼で、琉球を征服してその王になりたいという壮大な野心があり、その目的のためには手段を選ばず立身出世を目指す。方向の違いはあれ、夢を追う(そして挫折する)点は共通しているのだ。
志を発揮できずに終わった男たちもいる。「幻の軍師」の神子田正治は、プライドだけは高いがついに実力を発揮できずに終わり、「抜擢」の木村吉清は、能力を超えた地位について無惨に失敗し、「冥府の花」の木下吉隆は、理不尽な運命に振り回されて無念の死を遂げる。あるいは、「天神の裔」の菅道長、「老将」の和久宗是のように、人生の最後に意地を貫く道を選んだ男たちもいる。
その形はさまざまだが、本書のタイトルになっている「壮心の夢」という言葉に象徴されるような、乱世に生きる男たちの思いがどの作品にも描かれている。上の「桃源」と「おらんだ櫓」の例にも見えるように、前の作品で脇役で出てきた人物が次の作品の主役、というパターンもいくつかあって、配列も凝っている。そういう点も含めて、よくできた短篇集である。














