思想家たちの100の名言
思想家たちの100の名言/ロランス・ドヴィレール;久保田剛史訳(白水社・文庫クセジュ,2019)
古代から20世紀までの代表的な哲学者、思想家の100の言葉を取り上げ、その背後にある思想を解説する。一人一言ではないので、人数としては75人。
だいたい年代順に並んでいて、最初は古代ギリシア、ヘラクレイトスの言葉「ひとは同じ川に二度入ることはできない」。以下、ソクラテス、プラトン、ディお下寝すなど古代ギリシアの哲学者たちが続き、次に聖書に出てくる使徒のパウロやマタイ、古代ローマのキケロやセネカ、マルクス・アウレリウスなどが登場。
その後、5世紀のボエティウスから10世紀のアヴィセンナまでいきなり4世紀くらい飛ぶ。その次が11世紀のアンセルムス、そして12世紀のトマス・アクィナス。アヴィセンナ(イブン・シーナー)はイスラム圏の人だから、ヨーロッパに限れば5世紀くらい空白がある。中世ヨーロッパが思想的にいかに不毛だったかわかる。
ここまでがだいたい全体の3分の1。その後はもうルネサンスだが、エラスムスやマキャヴェリが出てくるくらいですぐ終わって、40番目でデカルト登場。ここからが本番という感じで、パスカル、スピノザ、ライプニッツと、近代以降の西洋哲学のビッグネームがずらりと並ぶ。
そして90番代に入ると、アーレント、ノージック、ドゥルーズ、レヴィナス、リクール、デリダなどの20世紀後半を代表する哲学者の名前が登場。最後の4人、カヴェル、ホネット、ブルーメンベルク、スローターダイクはブログ主の知らない名前だった。
――というような内容で、名言を通じて、西洋哲学の主要な流れがほぼわかる仕組みになっている。
もちろん、フランス人が書いたものだから、内容は「西洋思想」オンリー。西洋思想に影響を与えたイスラム世界の学者は数人出てくるが、中国、インドなどはまったく視野に入ってないのは、まあ、予想どおりではある。
ただ、気になるところとしては、名言が時として有名すぎて、今さら取り上げなくても――と感じてしまうところだろうか。デカルト「われ思う、ゆえにわれあり」とか、パスカル「人間は「考える葦」である」とか、ニーチェ「神は死んだ」とか。もうちょっとひねって、知られざる名言を発掘してもよかったのではないか。
なお、もっとも多くの名言が引用されているのはデカルトの4。次点はパスカル、スピノザ、カント、ヘーゲルの各3。この5人が、著者の見る西洋哲学のビッグ5ということか。
この5人が16も枠を使ったせいで、出てこなくなった有名な思想家もけっこういると思われる。日本的感覚からすれば、「百人一首」じゃないけど、「百人一名言」でよかったような気もする。
当然ながら、印象に残る言葉もけっこうあって、挙げ出すときりがないのだが、例としてひとつ引用してみる。
「真と偽は、好きや嫌いを言いあらわすこと以上に、確実性をもっているわけではない」(アントワーヌ・アルノー)