ことばはフラフラ変わる
ことばはフラフラ変わる/黒田龍之助(白水社,2018)
本ブログ6回目の登場、外国語大好き言語学者、黒田龍之助。
本書はこの著者にしては珍しい、本格的な言語学に関する本である。
大学の都合で、自分の専門でもなんでもない比較言語学の講義を担当することになった著者。しかし元から比較言語学に興味のあった著者は、この講義を「複数言語学」のつもりで、すなわち「複数の言語を対象とするときの考え方を紹介する」講義にしようとする。
その講義の内容を元にしたのが本書である。全10章。
1「言語が変化する理由を想像する」は、序論として、言語の変化という現象と、その要因について述べる。本書で使う「言語」と「ことば」の使い分けについても説明。
2「比較と対照はまったく違う」。比較言語学の「比較」は、厳密な学術用語で、同系の言葉の間でしか使えない。これに対し「対照」は、同系でも同系でなくても使えるのだそうだ。知らなかった。
3「どうして言語に先祖や親戚がいるのか」では、「祖語」、「姉妹言語」、「語族」といった言語の「近親関係」について、あくまでも比喩にすぎないと説明している。
4「比較言語学の先駆者たち」は、言語学史。インド・ヨーロッパ語族の研究を中心として、この著者の本には珍しく、言語学者たちの名前が次々と出てくる。
5「音の変化はいつでも複雑怪奇」では、言語学では有名な「グリムの法則」を中心に、音の変化について実例を紹介しながら説明。
6「親戚以外の関係もある」は、言語の接触から生まれる諸現象について解説。受容と反発、上下関係、共存関係など。
7「ピジン・クレオールは変化の最前線」。言語変化の生きた実例としてのピジン、クレオールについて。
8「ことばの違いを地図上に表わす」。言語地図と、そこから読み取ることができるさまざまな言語現象について。しかし地図の実例がひとつも載ってないのはなぜなのだろう。
9「政治が言語に口を出す」は、言語と政治のさまざまな関わりがテーマ。公的機関による用語の変更とか、ベルギーやルクセンブルクの言語事情とか、日本の言語政策とか。しかし、本書全体のテーマである言語の変化はどこへ行ったのか。
10「日本語の系統をめぐる危ない話」は、日本語の系統や起源が不明であることをまず説明、それを明らかにしようとする説の怪しさを批判する。
――というような内容で、本来の比較言語学の話は結局ごく一部。言語の変化や系統や関連や接触といったテーマをもとに、わりと自由自在に言語を語る内容になっている。
つまり、黒田龍之助の他の本と、読んだ印象としては大差ないのである。「ことば好き」にとっては、安定の面白さと言える。