狼の一族
狼の一族(異色作家短篇集 18 アンソロジー/アメリカ篇)/若島正編;深町眞理子ほか訳(早川書房,2007)
往年の名シリーズ、<異色作家短篇集>の再刊に当たって、新たに編集されることになったアンソロジー3冊のうちの1冊。サブタイトルのとおり、アメリカ作家の作品11篇を収録。発表年代は1952年から1975年まで。
「ジェフを探して」(フリッツ・ライバー)は、下町のバーを舞台とした、普通のホラー。
「貯金箱の殺人」(ジャック・リッチー)は、貯金箱に貯めた27ドル50セントで少年が殺人を依頼に来るという、意表をつく場面から始まるミステリ。どんでん返しにつぐどんでん返しが秀逸。
「鶏占い師」(チャールズ・ウィルフォード)は、カリブ海に浮かぶグレナディン諸島のベキア島(実在する)を舞台とした、土俗的ムードあふれる物語。読み方によっては一種のファンタジーかもしれない。「鶏占い」というのは、生きた鶏(シャモ)を使ったコッコリさんみたいなもの。ところで、翻訳で「ベキア島」が途中から「ベキラ島」になっているのはなぜなのだろう?
「どんぞこ列車」(ハーラン・エリスン)。SFではない。身を持ち崩し、貨車にもぐりこんで無銭旅行を続ける元音楽家の主人公。そこへ駆け落ちしたカップルが飛び乗ってくる。さらにもう一人のならず者も乗り込んできて――。最後が非常に日本人好みの人情話になっているのが意外だった。
「ベビーシッター」(ロバート・クーヴァー)は、なんだかよくわからないが、文章の勢いで読ませる話である。ベビーシッターの娘、そのボーイフレンド、雇い主の夫婦、子供、それぞれの行動と妄想がフラッシュバックのように短い断章で語られるが、次第にどれが現実でどれが妄想かわからなくなってくる。ちょっと前衛的。
象が列車に体当たり(ウィリアム・コツウィンクル)。この作者らしい、変な小説。アフリカに住む象が列車と勝負する話である。
「スカット・ファーカスと魔性のマライア」(ジーン・シェパード)。小学校を舞台にしたコマ勝負の話。主人公の少年は伝説のコマを手に入れ、学校でやりたい放題やっているボスにコマ勝負で挑む。ちょっとファンタジーが入っている。よく考えてみると、まるきりマンガみたいな話である。
「浜辺にて」(R・A・ラファティ)。このアンソロジー、最初のうちはわりとまともな小説だったが、だんだんと話のとんでもなさが増してくる。なかなかよく考えた構成である。このへんが、変な話も佳境に入ったところ。この作品、どんな話かと紹介することを考えただけで脱力してしまうくらい変な話なので、中身には触れない。ひとことだけ言うと、貝の話である。どこをとっても貝だらけである(蟹もちょっと出てくる)。
「他の惑星にも死は存在するのか?」(ジョン・スラデック)。一応SF、というかスペースオペラのパロディみたいなもの。ラファティよりもさらに輪をかけて変な話である。というか、ここまでくると、もう頭のタガがはずれてるんじゃないかと思いたくなる。例えば、「物質と反物質が衝突し、光と反光を放って消滅した。ずううん! ピーターは光速度で脇によけたが、残留物質がネバネバのエイリアンになって追ってくる」なんてくだり。いろんな意味で超越的。すごすぎる。
「狼の一族」(トーマス・M・ディッシュ)。スラデックの作品で特異点を超えてしまったのか、ここでわりとまともな小説に戻る。タイトルからも想像がつくが、狼男の悲劇的な物語である。結末はすぐに想像がついてしまうが。
「眠れる美女ポリー・チャームズ」(アヴラム・デイヴィッドスン)。最後を飾る才人デイヴィッドスンの作品は、「エステルハージ博士」を主人公としたシリーズものの一つ。時代は多分1900年前後、舞台は、オーストリア=ハンガリー二重帝国をモデルにしたとおぼしきスキュティア-パンノニア-トランスバルカニア三重帝国の首都ベラ。この架空の国はオーストリアではなくハンガリーのイメージが強い。ベラもウィーンではなくブダペストのイメージだろうか。そもそも、「エステルハージ」というのはハンガリー人の名前である。この作品、催眠術の失敗でずっと眠ったままになってしまった美女を巡る物語だが、エステルハージ博士がそんなに活躍するわけではなく、ストーリー的には大したものはない。ただ、架空の時代、架空の国の架空の首都の雰囲気が、独特の、それこそ「奇妙な味」を出している。
SF、ファンタジー、ホラー、ミステリ、前衛、奇想。作品のバラエティは、<異色作家短篇集>というシリーズそのものの縮図になっている。マイベストは、「貯金箱の殺人」、「浜辺にて」、「他の惑星にも死は存在するのか?」。
ところで、編者あとがきで、「異色作家短篇」について若島正が自分なりの定義を述べている。「ヘンな作家」が書いた「ヘンな短篇」。納得するしかない。「異色作家短篇」というつかみどころのない呼び名を、これ以上的確に表現する言葉はないだろう。






