太平洋大戦争
太平洋大戦争 開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記/H・C・バイウォーター;林信吾、清谷信一訳(コスミックインターナショナル コスモシミュレーション文庫,2001)
原著の発行は1925年。サブタイトルにもあるように、実際の太平洋戦争が起きる16年前に、太平洋を舞台にした日米戦争を予測した小説。
著者は軍事関係の著作を何冊も書いているイギリスのジャーナリストだが、序文によればスパイの経験もあるとのこと。しかし小説に関しては素人なので、この作品も小説としてはたいしたことない。ただ、艦船や兵器のスペックや戦術についてはやたらと細かい。要するに、今の架空戦記と同じようなものである。
中国の資源を巡って日本とアメリカの対立が深まる中の1930年、日本で共産主義者に煽動された大規模な暴動が起きる。日本政府は、内乱の危機を回避するために国民の関心を外に向けようとする。そのための手段が、アメリカに対する戦争だった。日本はアメリカに対する恫喝と挑発を始め、アメリカもこれに対抗して強硬な態度をとり、両国の関係はどんどん悪化していく。
1931年3月、日本はついにアメリカに戦線布告。直後にパナマ運河を通過中の日本船が大爆発を起こして運河は使えなくなる。
そしてルソン沖で日米の海軍の間に戦闘が勃発。「アメリカにアジア艦隊とは、戦闘部隊というよりは「国旗掲揚台艦隊」とでも呼ぶべきしろもので、駆逐艦と潜水艦以外は、どうしようもない老朽艦ぞろいである」と書かれていたアメリカ艦隊は、巡洋戦艦「金剛」、「比叡」、「霧島」、空母「鳳翔」などを主力とする日本艦隊の前にあっさり全滅する。
なお、この海戦もそうだが、本書には、後に実際の戦争で活躍することになる軍艦の名前が結構出てくる。日本軍で言えば、ほかに「赤城」、「加賀」、「長門」など。アメリカでは戦艦「ウェストバージニア」、「カリフォルニア」、「メリーランド」、空母「サラトガ」、「レキシントン」など。
とにかくこの海戦を皮切りに、日米の戦争が始まる。日本軍は緒戦でフィリピンとグアムを占領。実際の太平洋戦争と違ってイギリスやオランダとは戦争してないので、それ以外のところは攻めない。後はもうハワイまで攻撃するところがなくなってしまって、戦争は一旦膠着する。
史実で起きたような上陸作戦や玉砕戦などはあまり起こらず、日本軍がアメリカ西海岸を攻撃したり、小笠原沖やサモア沖、ダッチハーバーなどで次々と海戦が起きたり、どちらかといえばだらだらと戦争は続いていく。 しかしその間にアメリカは徐々に戦力を充実。最後は攻勢に出たアメリカ海軍と日本の連合艦隊とがフィリピン沖で激突。大海戦の結果、日本海軍は大敗し、フィリピンもアメリカに奪回される。結局、1933年に日本が大幅に譲歩する形で講和条約が結ばれる。
日本は南洋諸島をアメリカに譲渡し、中国の権益を放棄することになったので、明かな日本の敗北。しかし実際に起きた戦争では壊滅的な被害を受けた日本が無条件降伏するという、はるかにひどい結果になるのだが、著者もそこまでは予想できなかったらしい。
しかし戦争が長期化すれば、国力に劣る日本が次第に劣勢になるというのは史実が示したとおり。
本書の中ほどにこんな文章がある。
アメリカの経済力は、日本の蓄財など問題にならない規模である。月を重ねるごとに、その軍事力は加速度的に強化され、やがては日本をはるかに凌ぐ規模の大艦隊を建造し、数陸軍も数百万名の動員を完了するに違いない。日本にしてみれば、時間はまったく敵に有利にしか働かないのだった。(p.123)
こんなことは1920年代からわかりきっていたのだった。