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2010年11月 5日 (金)

この本を買った理由

キミがこの本を買ったワケ/指南役(扶桑社文庫,2010)
 表紙を開いてから、目次まで数ページある。
 1ページに1行ずつ、「あなたはなぜ、この本を買ったのでしょう?」、「魔法のヴェールをまとっていたから?」、「脳内スロットがゾロ目になったから?」、「最初の25%に入りたいから?」、「それとも?」――計5ページ。
 その次に「神の見えざる手」と題して、2ページの序文みたいなものがある。「実は、人の「買う理由」はよくわかっていない」、「多くは、よくわからないまま買っている」、そして最後に「本書は、未だ解明されない「買う理由」を、世界で初めて解き明かした本である」と、堂々たる宣言が書いてある。
 で、やっとその次が目次。なんだか予告編と映画本編が一緒になったような感じだ。
 本文の書き方はごく普通。4章に別れて26のパートで構成、各パートのタイトルは、必ず最後に「理由」がついている。「ダイエット中のケーキ1個が2個になる理由」、「クラスで4番目に可愛い女の子が一番モテる理由」、「デパ地下で結局、何も買わずに帰る理由」、「CMは好きなのに商品を買ったことがない理由」といった具合に、立ち読みで目次を見ただけの人に、買う気を起こさせようという下心が見え見えのタイトルが並んでいる。
 だが、その本文の中で、序文で宣言しているように「買う理由」が解明されているかというと、いくら読んでも「世界で初めて」の真実は見えてこない。「選択肢が多すぎると、結局何も買わない」、「ヒットするCMとヒットする商品の間に関連性はない」、「口コミは効果がない」といった、人が者を買う理由、買わない理由、あるいは広告戦略の有効性などについてのケーススタディは次々と出てきて、それはそれなりに、個別の読み物としてはおもしろいのだが...。
 結局、マーケティングで有効と誤解されていることの数々――つまり、「人が商品を買う理由でないもの」とか「ヒットする理由でないもの」とかは、いろいろと列挙されているような気がするが、最後まで来ても、決定的な「買う理由」――本書の言葉を使えば「魔法のヴェール」の正体は、はわからないのである。
 「あとがき」には、「本当は何がものを売っているかわからない」とか、「"キミがこの本を買ったワケ"の解明は、もう少し時間がかかりそうです」とか、最初の威勢のいい序文から考えると、敗北宣言としか思えないことが書いてある。
 まあ、それがわかっていたら、この本も大ベストセラーになっているだろう。「あとがき」には、単行本は「そこそこ売れ」たと書いてあるが...。奥付にこの本の著者である「指南役」なる企画集団の著書が載っているが、この本も含め、世間で騒がれるほど売れた本は見あたらないので、やはり「魔法のヴェール」は使いこなせてないと見える。
 これを、千円以上の単行本で買ったら(単行本は2007年発売)、腹が立つかも知れない。アマゾンのレビューを見るとずいぶんけなしている人もいる。確かに羊頭狗肉的な部分もあるが、だがまあ、文庫――それも雑学系の文庫だと思えば、「人間の不可解な購買行動の数々」をトリビア的に扱った読み物として、これはこれでいいのではないだろうか。
 ところで、私はなぜこの本を買ったのだろうか? 自分でもよくわからない…。

キミがこの本を買ったワケ (扶桑社文庫)

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