サラリーマン漫画の戦後史
サラリーマン漫画の戦後史/真実一郎(洋泉社・新書y,2010)
戦後日本の特異なマンガの1ジャンル、サラリーマン漫画。それを読み解くことにより、日本の会社や働き方の変化、サラリーマン像の変遷、そして「サラリーマン」の解体までが見えてくる。――みたいなことを書いた本。
第1章「島耕作ひとり勝ちのルーツを探る」
サラリーマン漫画のルーツは、源氏鶏太のサラリーマン小説にあった。この<源氏の血>を受け継いだ王道作品が『課長島耕作』。本書はこの漫画を、社会現象にまでなった、あらゆるサラリーマン漫画の頂点と位置づける。
この章が序論。以下、第2章から第5章まで、年代別に追っていく。
第2章「高度経済成長とサラリーマン・ナイトメア」
1950年代から70年代までのサラリーマン漫画。前谷惟光『ロボットサラリーマン』、サトウサンペイ『フジ三太郎』、東海林さだお『サラリーマン専科』、藤子・F・不二雄『劇画・オバQ』・『中年スーパーマン左江内氏』、諸星大二郎『商社の赤い花』・『会社の幽霊』、北見けんいち『釣りバカ日誌』。この頃は大河サラリーマンドラマみたいなのはまだないようだ。
第3章「バブル景気の光と影」
バブルに踊った1980年代。島耕作シリーズもこの頃からだが、それ以外の作品を取り上げている。聖日出夫『なぜか笑介』、植田まさし『おとぼけ課長』・『かりあげクン』、高井研一郎『総務部総務課山口六平太』、柳沢みきお『妻をめとらば』、窪之内英策『ツルモク独身寮』、ホイチョイプロ『気まぐれコンセプト』、望月峯太郎『お茶の間』。マンガにもバブルの光と影が見える。
第4章「終わりの始まり」
サラリーマンの基盤が崩壊し始めた1990年代。新井英樹『宮本から君へ』、国友やすゆき『100億の男』、本宮ひろ志『サラリーマン金太郎』、高橋しん『いいひと』。
第5章「サラリーマン神話解体」
2000年以降、一般的なサラリーマン像はもはや解体し、マンガでも特定職業ものが流行し始める。もはや「サラリーマン漫画」というより、「お仕事マンガ」と言うべきだろう。
女性主人公が増えてくるのも21世紀の特徴か。安野モヨコ『働きマン』、おかざき真里『サプリ』、三宅乱丈『ヒーローズ』、三田紀房『エンゼルバンク』・『透明アクセル』、花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、よしたに『ぼく、オタリーマン』、田中圭一『サラリーマン田中K一がゆく!』、うめ『東京トイボックス』、ねむようこ『午前3時の無法地帯』、柳沢きみお『特命係長只野仁』。
上記のように、実にさまざまな「サラリーマン漫画」が本書には登場する。しかし実はブログ主はこの手のマンガにはほとんど興味がなく、ちゃんと全部読んだことがある作品は一つもない。そして、本書を読んでも、とりたてて読んでみたいという気は起きないのだった。
それなのになぜこういう本を読むのかというと、まあ、読んでないからこそ、これですませてしまうという側面もある。それに、読み物としてはそれなりに面白い。
マンガガイドとしてはあまり役に立たなかったが(少なくともブログ主にとっては)、マンガを通じた「サラリーマン論」としては、よくできているのではないだろうか。