アニメ・コミック

2018年7月23日 (月)

サラリーマン漫画の戦後史

サラリーマン漫画の戦後史/真実一郎(洋泉社・新書y,2010)
 戦後日本の特異なマンガの1ジャンル、サラリーマン漫画。それを読み解くことにより、日本の会社や働き方の変化、サラリーマン像の変遷、そして「サラリーマン」の解体までが見えてくる。――みたいなことを書いた本。

 第1章「島耕作ひとり勝ちのルーツを探る」
 サラリーマン漫画のルーツは、源氏鶏太のサラリーマン小説にあった。この<源氏の血>を受け継いだ王道作品が『課長島耕作』。本書はこの漫画を、社会現象にまでなった、あらゆるサラリーマン漫画の頂点と位置づける。
 この章が序論。以下、第2章から第5章まで、年代別に追っていく。
 第2章「高度経済成長とサラリーマン・ナイトメア」
 1950年代から70年代までのサラリーマン漫画。前谷惟光『ロボットサラリーマン』、サトウサンペイ『フジ三太郎』、東海林さだお『サラリーマン専科』、藤子・F・不二雄『劇画・オバQ』・『中年スーパーマン左江内氏』、諸星大二郎『商社の赤い花』・『会社の幽霊』、北見けんいち『釣りバカ日誌』。この頃は大河サラリーマンドラマみたいなのはまだないようだ。
 第3章「バブル景気の光と影」
 バブルに踊った1980年代。島耕作シリーズもこの頃からだが、それ以外の作品を取り上げている。聖日出夫『なぜか笑介』、植田まさし『おとぼけ課長』・『かりあげクン』、高井研一郎『総務部総務課山口六平太』、柳沢みきお『妻をめとらば』、窪之内英策『ツルモク独身寮』、ホイチョイプロ『気まぐれコンセプト』、望月峯太郎『お茶の間』。マンガにもバブルの光と影が見える。
 第4章「終わりの始まり」
 サラリーマンの基盤が崩壊し始めた1990年代。新井英樹『宮本から君へ』、国友やすゆき『100億の男』、本宮ひろ志『サラリーマン金太郎』、高橋しん『いいひと』。
 第5章「サラリーマン神話解体」
 2000年以降、一般的なサラリーマン像はもはや解体し、マンガでも特定職業ものが流行し始める。もはや「サラリーマン漫画」というより、「お仕事マンガ」と言うべきだろう。
 女性主人公が増えてくるのも21世紀の特徴か。安野モヨコ『働きマン』、おかざき真里『サプリ』、三宅乱丈『ヒーローズ』、三田紀房『エンゼルバンク』・『透明アクセル』、花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、よしたに『ぼく、オタリーマン』、田中圭一『サラリーマン田中K一がゆく!』、うめ『東京トイボックス』、ねむようこ『午前3時の無法地帯』、柳沢きみお『特命係長只野仁』。

 上記のように、実にさまざまな「サラリーマン漫画」が本書には登場する。しかし実はブログ主はこの手のマンガにはほとんど興味がなく、ちゃんと全部読んだことがある作品は一つもない。そして、本書を読んでも、とりたてて読んでみたいという気は起きないのだった。
 それなのになぜこういう本を読むのかというと、まあ、読んでないからこそ、これですませてしまうという側面もある。それに、読み物としてはそれなりに面白い。
 マンガガイドとしてはあまり役に立たなかったが(少なくともブログ主にとっては)、マンガを通じた「サラリーマン論」としては、よくできているのではないだろうか。

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2017年7月30日 (日)

アニメが地方を救う!?

アニメが地方を救う!? 「聖地巡礼」の経済効果を考える/酒井亨(ワニブックスPLUS新書,2016)
 今や、Googleで「聖地巡礼」を検索すると、本来の宗教的な意味ではなく、アニメや漫画の舞台をファンが訪れる――つまり本書のテーマである「聖地巡礼」に関するページが上位にずらりと並ぶ。
 本書は、社会現象になっているこの「聖地巡礼」について、アニメやオタク文化をあまり知らない人にもわかるように、丁寧に説明している。
 著者は金沢学院大学の准教授で、生まれも金沢だということなので、本書にもたびたび登場する代表的「聖地」のひとつ湯涌温泉の地元民でもある。本書はそんな地の利も生かしての(?)科学研究費助成事業の成果のひとつでもあるらしい。最近の科研費はこういうことにも使えるようになっているのか…。
 それはともかく、本書の内容は以下のようなもの。

 第1章「アニメの歴史とツーリズムとの関係」では、そもそもアニメとは何か、という根本的なところから始まっている。日本のアニメの歴史を簡単に述べて、さらに「聖地巡礼」を含む広い概念である「コンテンツツーリズム」の説明も。
 第2章「急増する「アニメ聖地」」は、本題であるアニメ聖地についての入門的説明。著者はその起源を「アルプスの少女ハイジ」のスイスと「フランダースの犬」のベルギーに求める。国内でファンたちによる「巡礼」が本格化したのは「おねがい☆ティーチャー」(2002年)の大町市近辺だという。そして「アニメまちおこし」の最初の事例は、鷺宮神社で有名な「らき☆すた」(2007年)だというから、いずれにしてもまだ歴史は浅い
 第3章「アニメ聖地巡礼「花咲くいろは」の試み」では、アニメ聖地の町おこしのケーススタディとして、「花咲くいろは」と金沢・湯涌温泉、能登鉄道の事例を取り上げる。アニメに登場する架空の祭り「ぼんぼり祭り」が地域の祭りとして現実化し、寂れかけていた温泉町に活気を取り戻すという大きな効果を生んでいる。
 第4章と第5章では「アニメ聖地巡礼のケーススタディ」として2章に分けて全国各地のアニメ聖地を紹介している。ページ数から見ても、この2章で本書の総ページ数の4割を占めていて、メインコンテンツといっていいだろう。
 といっても、本書はファン向けガイドブックではないので、あくまで関連作品と地元での取り組み、現地の状況について、研究者の視点から観察、紹介しているわけである。科研費研究の成果なのだから、当然ではある。逆にいうと、アニメにあまり詳しくない人が読んでも、そこそこわかりやすい。
 第6章「アニメ聖地巡礼と関連する事柄」は、それこそ「その他」の話題を集めたという感じ。聖地に準ずる土地として、キャラや作家の出身地、アニメスタジオ所在地、声優関連地などを紹介。その他、痛車、痛絵馬などのファン文化などについて。
 最後の第7章「アニメ聖地巡礼の経済効果」で、いよいよサブタイトルの「経済効果」が出てくる。「聖地」での関連効果、活動の実情、聖地化までの関門、地域のマイナス要因など、さまざまな面から経済効果を検証しているが、実のところ、金額としてはおおまかな推測値しか出てこない。そして「金額的にはそうたいしたことはない」という。だがそもそもアニメは文化商品であり、その効果は金額だけで測定できるものではない――。
 そのへんが本書の結論ということなのだろう。それはそれでいいし、これ1冊で「聖地」の起源や歴史、全国の実情を簡単ではあるが概観できるという点で値打ちのある本ではある。ただ、実はけっこう地味な内容なのに、タイトルが煽りすぎじゃないかという気はする。

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