日本まんじゅう紀行
日本まんじゅう紀行/弟子吉治郎(青弓社,2017)
著者は本業は放送業界の人。Wikiを見ると、ラジオ・テレビ番組ディレクター、作曲家、音楽プロデューサー、著作家、メディアコーディネーター、実業家(放送プロダクションを経営している)と、やたらと肩書きが多い。
この本は一見そんな本業とは無関係のようだが、実は著者の実家はまんじゅう屋。「まんじゅう屋の空気を吸って育った」という。今でも無類のまんじゅう好きなのである。
著者のいう「まんじゅう」は非常に範囲が広い。「和菓子」は高級、庶民的な和風のお菓子は「まんじゅう」という、やたらとおおざっぱな区分をしている。ぼた餅も最中もまんじゅうに分類する。
だいたい、広義のあんこを使っている、高級でないお菓子は全部「まんじゅう」になるようである。だから本書に出てくるお菓子の範囲も非常に広い。餅やようかんはもちろんのこと。表紙にもどら焼きや串団子の写真が出ている。
さらに、この範疇にすら入らないお菓子も出てくる。例えば「夏蜜柑の丸漬」なんてのも出てくるが、どこが「まんじゅう」なのかわからない。
とにかく、そんなバラエティに富んだお菓子を、ひとつあたり3~4ページで、写真と文章により紹介。全8章。
これだけなら、よくあるパターンだが、実は文章が独特。ところどころ、やたらと詩的な表現が出てくる。例えばこんな具合。
このよもぎ求肥には、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ『月光』の揺らめきがあります。これを食べながら阿弥陀経の極楽国土を見ることができます。歌舞伎『勧進帳』で花道の弁慶を見送る富樫の心中にも似ています。(p.15 「両月堂のよもぎ求肥」)
東京のなかで私がいちばん好きな町が神楽坂。ここには、言霊や音の女神や命の滴や消されてもなお漂う香りと匂いがあるような気がします。(p.27 「神楽坂のマンヂウカフェ」)
本書をよくある「おいしいものガイド」と区別しているのは、この個性あふれる表現に満ちた文章なのである。結局どんな味なのかは、よくわからないのだが。
実はブログ主は著者のいう「まんじゅう」――あんこの入ったお菓子がけっこう好きなので、こういう本にはつい興味を引かれてしまうのだった。