グルメ・クッキング

2020年11月 7日 (土)

日本まんじゅう紀行

日本まんじゅう紀行/弟子吉治郎(青弓社,2017)
 著者は本業は放送業界の人。Wikiを見ると、ラジオ・テレビ番組ディレクター、作曲家、音楽プロデューサー、著作家、メディアコーディネーター、実業家(放送プロダクションを経営している)と、やたらと肩書きが多い。
 この本は一見そんな本業とは無関係のようだが、実は著者の実家はまんじゅう屋。「まんじゅう屋の空気を吸って育った」という。今でも無類のまんじゅう好きなのである。
 著者のいう「まんじゅう」は非常に範囲が広い。「和菓子」は高級、庶民的な和風のお菓子は「まんじゅう」という、やたらとおおざっぱな区分をしている。ぼた餅も最中もまんじゅうに分類する。
 だいたい、広義のあんこを使っている、高級でないお菓子は全部「まんじゅう」になるようである。だから本書に出てくるお菓子の範囲も非常に広い。餅やようかんはもちろんのこと。表紙にもどら焼きや串団子の写真が出ている。
 さらに、この範疇にすら入らないお菓子も出てくる。例えば「夏蜜柑の丸漬」なんてのも出てくるが、どこが「まんじゅう」なのかわからない。
 とにかく、そんなバラエティに富んだお菓子を、ひとつあたり3~4ページで、写真と文章により紹介。全8章。

 これだけなら、よくあるパターンだが、実は文章が独特。ところどころ、やたらと詩的な表現が出てくる。例えばこんな具合。

 このよもぎ求肥には、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ『月光』の揺らめきがあります。これを食べながら阿弥陀経の極楽国土を見ることができます。歌舞伎『勧進帳』で花道の弁慶を見送る富樫の心中にも似ています。(p.15 「両月堂のよもぎ求肥」)

 東京のなかで私がいちばん好きな町が神楽坂。ここには、言霊や音の女神や命の滴や消されてもなお漂う香りと匂いがあるような気がします。(p.27 「神楽坂のマンヂウカフェ」)

 本書をよくある「おいしいものガイド」と区別しているのは、この個性あふれる表現に満ちた文章なのである。結局どんな味なのかは、よくわからないのだが。
 実はブログ主は著者のいう「まんじゅう」――あんこの入ったお菓子がけっこう好きなので、こういう本にはつい興味を引かれてしまうのだった。

Nihonmanjuukikou

| | コメント (0)

2017年3月20日 (月)

イギリスはおいしい・いつも食べたい

 今回はリンボウ先生・林望のエッセイ2冊。『イギリスはおいしい2』と『いつも食べたい!』を紹介。記事タイトルは2冊の書名を並べただけで、「イギリス料理はおいしくていつも食べたい」という意味ではない。

イギリスはおいしい2/林望(文春文庫,2001)
 リンボウ先生の名を一躍有名にした『イギリスはおいしい』の続編――ではない。『リンボウ先生 ディープ・イングランドを行く』(1988)の改題、文庫化。多分出版社が文庫化にあたってタイトルを変えたのだろうが、2匹目のドジョウを狙うにもほどがある
 内容は要するに、ノーサンブリアからスコットランド南部にかけての写真紀行。旅程、風景、宿選びの隅々まで著者の趣味が横溢していて、田舎の魅力的な宿や、荒野にたたずむ廃墟の話などが味わい深い。だが、食い物の話はほとんど出てこないので、元の題名の方が内容にふさわしかった。
 約200ページの薄い本で、そのうえ全体の半分が写真だから、文章はちょっとしかない。こういう内容なら、文庫化するより、むしろ単行本よりもっと大判で出した方がよかったのではないか。その方がこの本にはふさわしい。ソファでくつろぎながら、ゆったりとページを開き、写真を味わうのに適した内容なのだ。
 はしばしに出てくるリンボウ節もそんな雰囲気によく合う。例えば――。

 思うに、休日というものは、こうした平安な場所で、美しい天地を眺め、その気を吸って、何もしないでいる、それが理想なのではあるまいか。(p.113)

 とか。

 しかし、もしイギリスの風景の美しさを言うのなら、こうした何もない曠野をこそ味わうべきだ。(中略)文学は、こんなふうに何もない丘べの風光を背景にして、人の哀しみや喜びを語ったのである。(p.120)

 とか。
 こんな美しい風景ばかりの話ではなく、レイバーンという町で出会った、史上最低の中華料理の話なども面白い。本書に出てくる数少ない食い物の話。しかしこれをもって「イギリスはおいしい」とは、いくらリンボウ先生でも言えないだろう。

Igirisuwaoisii2

いつも食べたい!/林望(ちくま文庫,2013)
 短い食エッセイを集めたもの。ほとんどが『味覚春秋』に連載された記事。
 イギリスの食べものの話で有名になったリンボウ先生だが、本当に好き名のは和食らしい。本書に登場する食べものも日本食が中心。時々イギリスの食べ物も出てくるが。
 全体が「味噌蔵」、「骨まで愛すべし」、「私の食養生」、「忘れ得ぬ味」の4部構成。しかし特に明確なテーマがあるようでもなく、思い出話あり、料理の作り方あり、食文化論ありとバラエティに富んだ食の話が一見雑多に並べられている。ただ、「忘れ得ぬ味」の章にはイギリスの話が多いような気がする。
 それにしても林望は、うまい食べものは本当にうまそうに書く。別に大げさな表現もないのに、平凡な食べものがここまでうまそうなのは、文章からにじみ出る独特の雰囲気によるものだろう。
 酒をまったく飲まない著者だけに、純粋に食べること自体を楽しんでいるようで、その気分が読者にまで伝わってくるのかと思われる。
 特に印象的なのは、「夕闇のスコン」、「農夫の食卓」、「イギリス、その朝食の天と地と」など、やはりイギリスもの。

Itsumotabetai

| | コメント (0)