社会

2021年2月16日 (火)

勲章

勲章 知られざる素顔/栗原俊雄(岩波新書,2011)
 日本の勲章の歴史と現状について解説する本。
 サブタイトルに「知られざる」とあるが、ブログ主に関してはまさにそのとおりだった。改めて考えてみると(いや、考えてみなくても)、勲章についてほとんど知らなかったことに気づく。
 今の日本にどんな種類の勲章があって、どんな風に制度が運用されているか、基本的なことさえ知らなかった。「文化勲章」だけは名前を知っていたが。それくらい、興味がなかったというのが本当のところ。しかし読んでみると、なかなか興味深いのだった。
 内容は全7章。
 
 第1章「勲章誕生――薩摩藩の野心、幕府の焦燥」は、日本の勲章の起源について。その歴史はそんなに古くはない。幕末から明治にかけて、世界との国交を開いた日本の、外交上の対面から生まれたものだったのだ。
 第2章「整えられる栄典制度――「大日本帝国」の下で」は、明治の勲章制度と、第二次世界大戦までの歴史を述べる。この時期一番多かったのは、軍人に贈られる金鵄勲章だったとのこと。
 第3章「生存者叙勲の停止と復活――戦後の転機(1)」は、戦後の勲章の歴史。敗戦による事実上の廃止から復活まで。
 第4章「相次ぐ批判、そして改革――戦後の転機(2)」。戦前のまま復活した勲章だが(金鵄勲章は除く)、「勲一等」などの等級づけに批判が多く、2002年から2003年の制度改革で、数字による等級は廃止され、勲章の名称が一変した。
 第5章「誰に、どの勲章を?――選考の過程」は、勲章の裏舞台について。叙勲対象者の選考と、その裏で展開される悲喜劇の数々。この章のテーマだけで、本が一冊書けそうである。
 第6章「国家との向き合い方――受勲者・拒否者たち」。叙勲の対象になった人々と、それに対する様々な思い。特に勲章を拒否した人々について詳しく述べられている。著者が一番書きたかったのは、この章のような気がする。
 第7章「売買される勲章――製造の現場と市場」。前半は勲章制作の現場ルポ。そして後半は、勲章売買の現場。かなりの数の勲章が売買されているという。

 最後は勲章市場という、やたら生臭い話で終わる。しょせん勲章とはその程度のもの――と言いたいような気がする。
 なるべく中立的に書こうとしているのはわかるが、それでも、実は著者が勲章制度について批判的であることが、随所に読み取れる。とはいえ、知らなかった情報が満載で、まさに知識の空白を埋める本だった。

 

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2020年12月25日 (金)

20世紀モノ語り

20世紀モノ語り/紀田順一郎(創元ライブラリ,2000)
 いわゆる「事物起源」の本。
 タイトルには「20世紀」とあるが、実際には明治以来、19世紀後半~20世紀の1960年代までを扱っている。
 なぜそういう内容になっているかは、あとがきを読めばわかるのだが、それによると、本書の来歴は非常に複雑。
 最初は「明治百年」(1968年)の頃、『小説現代』に連載したコラム「明治百年カレンダー」が元になっている。その連載をまとめて単行本になったのが1980年刊『コラムの饗宴』(なぜこういうタイトルになったのか不明)。
 その後連載時のタイトルに近い『近代百年カレンダー』(旺文社文庫、1985)、さらに『近代事物起源事典』(東京堂書店、1992)として再刊。そのつど増補しているという。
 そして今回大幅な増補改訂を行ったというのが本書。最初の連載時も含めれば、実に5回目の刊行、5番目のタイトルということになる。

 内容は、162の項目を五十音順に並べている。一項目2ページ。最初は「アイスクリーム」、最後は「レコード」。
 取り上げられている項目は当然ながら、明治時代に初めて日本に登場した事物が多い。「赤ゲット」、「映画」、「学校」、「銀行」、「自転車」、「タクシー」、「ネクタイ」、「ボーナス」、「ランプ」など。だが、それ以外にも、明治以降に大きな変化を見せたものも取り上げている。「温泉」、「漢字」、「結婚」、「地震」、「下着」、「住宅」、「心中」、「スリ」、「手紙」、「時計」などである。
 また、「図書館」、「文庫本」、「未来記」などは、いかにもこの著者らしい選び方が見える項目だろう。
 記述はあとがきで著者自身も書いているように、「明治時代の起源の部分に厚く、現代に近づくほど薄くする」形。詳しく書けば本1冊になりそうな項目も多いが、全部2ページにまとめているのは力業と言える。
 ただ、「明治百年」が企画の出発点になっているせいか、年代表記が基本的に元号ばかりなので、西暦に慣れた身には、ちょっと時代感覚を把握しづらい。人によっては、むしろその方がわかりやすいのかもしれないが…。

20seikimonogatari

 

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2019年12月 7日 (土)

終身刑の死角

終身刑の死角/河合幹雄(洋泉社・新書y,2009)
 著者は法社会学の専門家で、特に犯罪や刑罰の現状を研究分野としている。
 2008年頃、国会の超党派の議員団が、「仮釈放のない終身刑」の導入を主張していた。本書は、この動きに危機感を感じた著者が、急遽執筆、発表したもの。
 この時は結局、「仮釈放のない終身刑」は国会での賛同が得られず導入は見送られたが、本書の価値が時期を逸したとして失われるわけではない。
 内容は、日本の凶悪犯罪の実態から刑務所の中の実情、死刑制度、無期懲役制度の実態と問題点、受刑者の出所後の社会復帰のあり方、被害者の視点、さらには「罪を犯した者を世間から永久に排除する」日本人の心性にまで議論が及んでいて、教えられることが実に多い。
 その中で「仮釈放のない終身刑」の問題点を論じているのはひとつの章に過ぎないが、これがまた実に説得力がある。終身刑の囚人は、どんなに反抗的な態度をとっても、また脱走を試みても刑がこれ以上重くなることはなく、逆に素行をいくらよくしても仮釈放という成果は得られない。要するに、刑務官の仕事を困難にするだけだという。
 実際には、現在仮釈放は滅多に認められず、無期懲役の受刑者は獄死する方がはるかに多い。それでも、わずかな可能性であっても仮釈放の望みがあることは、刑務官が受刑者と良好な関係を築く上で欠かすことのできない要素になっているというのだ。
 なお、問題の「仮釈放のない終身刑」というのは、死刑を廃止するかわりの最高刑として検討されていたのだが(そのわりには、上記の導入の動きには死刑存続派も加わっていたというのは不思議な気がするが)、死刑については、著者は存続賛成派だとはっきり言っている。著者が受刑者の処遇についての配慮を強調しているだけに、これはちょっと意外だった。ただし、死刑という制度は残した上で、できる限り執行をゼロにしておくことが望ましいというのが、著者の立場。
 単なる時事ネタではなく、日本の刑務所制度について貴重な情報を提供してくれる良書だった。

 

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2019年10月 1日 (火)

百年分を一時間で

百年分を一時間で/山本夏彦(文春新書,2000)
 以前に本ブログで紹介した『誰か「戦前」を知らないか』(2013年6月9日のエントリー)の続編。
 戦前を中心とした過去の日本を語るという趣旨も、聞き手が著者の会社の若い女性社員であるという形式も前著と同じ。山本夏彦の相手をしているのは、最後の一回を除いて、どうやら前の本と同じ人のようだ。ご苦労なことである。ただ、今回はなぜか「夏彦迷惑問答」というサブタイトルがなくなっている。
 タイトルは「この百年の日本について、一時間で語る」という意味らしい。いくら新書でもまるごと一冊一時間で読むのはちょっと無理だし、かといって一回分だけなら10分もあれば読める。一時間というのは、元になったインタビューにあてた時間なのだろう。
 また、タイトル「百年」とあるように、今回は戦前に限らず、戦後の社会も話題に入っている。日本の現状というか、文明そのものの現状が、著者には滅びの道をひたすら歩んでいるように見えるらしく、「世界はもう滅びる、21世紀は来ない」と何度も言っているのが目立つ。例えばこんな感じ。

山本 (…)いま日本では食べ物を捨てています。そういう国は革命は起きないかわりに亡びます。やっぱり二十一世紀は来ない、と今回も言っておきます。
―― でもあと一年です(笑)。
山本 一年たっても来ません。分らない人だな(笑)。この場合21世紀は近未来ということで、浮世のことを笑いにしたのは江戸の人の知恵です。(p.171「井戸塀」)

 山本自身は、この本が出て二年後、21世紀に入って2年目の2002年に死去した。享年87歳で、今まで生きているということはまずないだろうが、この時勢に生きていたら、どんな毒舌を吐いただろう。
 頑固で旧弊だけど、頑迷さや陰湿さを感じないこういう毒吐き爺さんが、今はあまりいないような気がする。
 最後のテーマ「電話」ではこんなことも言っている。ただ頭が古いだけの人ではなく、インターネットの本質を的確に捉えていた。結構新しいもの好きでもあったのだ。

山本 (…)人間は産業革命以来あらゆる角度から時空を無に近づけて成功しました。だから私はインターネットに挑戦しようと思うのです。
―― わぁすばらしい。私たちは皆すでに操作しています。強い味方を持ちました。でも「ワープロにしようかな」って仰有って結局「めんどくさいが先に立ち」で沙汰やみにしましたね。
山本 あんなもの、タイプライターみたいなものです。人間の根底をゆるがすものではありません。それにひきかえインターネットは広く深く、政治、経済、倫理を根本からゆるがします。あれは魔物じゃないかと疑っています。
―― 魔物対魔物ですか。(p.233「電話」)

 なお、本書のテーマは以下のとおり。
流行歌/オリンピックそのほか/就職難求人難/タイトル/花柳界/芸人/社会主義/奉公人/株式会社/井戸塀/長屋百年/PR/文士/貧乏/電話

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2019年4月14日 (日)

日本で1日に起きていることを調べてみた

日本で1日に起きていることを調べてみた 数字が明かす現代日本/宇田川勝司(ペレ出版,2018)
 タイトルのとおり、自然から社会、個人の生活まで、日本に関する一日当たりの数字を取り出して解説する本。
 1章「日本列島の1日」のテーマは、自然と交通、だろうか。「1日に、日本とその周辺で発生する地震」、「1日に、太平洋の海底が日本に向かって動く距離」、「1日に、日本に降る雨(雪)の総量など、自然に関する事項が最初のうちは並んでいる。
 しかし後半はなぜか「1日あたり、自衛隊機の緊急発進」、「1日あたり、全国の鉄道利用者」、「1日あたり、日本の空を飛行する旅客機」と、乗り物関係の数字が。
 2章「日本社会の1日」は、「1日に、生まれる赤ちゃんと亡くなる人」、「1日に、結ばれるカップルと別れるカップル」、など、社会に関する統計。人口に関する基礎的数字から、企業倒産数、インバウンド観光客数、コンビニの客数、売上高などの経済関係、東京ディズニーリゾート入園者、"くまモン"の出現回数などのトリビアな数字、犯罪、火災などに関する数字とさまざま。この章が一番項目が多い。
 3章「日本人の1日」は、個人単位の統計。「日本人1人あたり、1日に食べるご飯」、「日本人1人あたり、1日に食べるたまご」など、消費に関する数字が多い。さらには、睡眠時間、食事時間、入浴時間など生活に関する数字も。中には「女子高生が1日にスマホを使う時間」なんてのもある。
 4章「日本各地の1日」は、地域的統計。「札幌市が、積雪時の1日(一晩)に除雪する道路」、「福島第一原発で1日に増える汚染水」など。「551蓬莱の豚まん1日の販売数」とか、「香川県民が1日に食べるうどん」なんてのもある。ただ、項目が12しかないので、到底全国をカバーするには至ってない。

 カラー図版が豊富で見やすいのはいいのだが、項目の選び方や並べ方がとりとめない印象がある。それに、結局のところ、年間統計の数字を一日当たりに換算しているだけでは。わざわざ1日の数字にする必要があるのか、と思ってしまう項目がずいぶんある。
 情報量としてはそれなりなのだが、こういうタイトルにするからには、「一日あたり」でなければ見えてこないような意外な発見、みたいなものが欲しかったところ。

 

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