SF

2021年4月 1日 (木)

新・幻想と怪奇

新・幻想と怪奇/仁賀克雄編訳(ハヤカワ・ミステリ,2009)
 タイトルに「新」とついているのは、同じハヤカワ・ミステリから1956年に『幻想と怪奇』という2冊ものアンソロジーが出ていたため。そちらの方はレ・ファニュ、ブラックウッド、ラヴクラフト、M・R・ジェイムズなど、いかにも正統派の怪奇幻想小説の作家たちが収録されている。
 本書はその続きとなる怪奇幻想小説のアンソロジーということになるのだが、作者名を見ると、ヘンダースン、シェクリイ、ナース、ファーマー、テン、ウェルマン、マシスンなど、半分くらいSF作家。SFファンタジーのアンソロジーと言うべきかもしれない。
 内容は17編を収録。

「マーサの夕食」(ローズマリー・ティンパリー)
 これはサイコホラー。旦那の浮気相手を奥さんが料理してしまう。
「闇が遊びにやってきた」(ゼナ・ヘンダースン)
 五歳の少年スティーヴィは川の土手で「闇」を見つけ、それを封じ込める。だがロバのエディが封印を破ってしまう。「闇」に取り憑かれたロバの描写が鬼気迫る。
「思考の匂い」(ロバート・シェクリイ)
 未知の惑星に不時着した宇宙郵便配達人が、思考感知能力を持つ現住生物に襲われるという、完全なSF。
「不眠の一夜」(チャールズ・ボーモント)
 炉端怪談形式のショートショート。ある館での一夜の怪異を語って、単純だがよくできている。
「銅の器」(ジョージ・フィールディング・エリオット)
 ベトナムでフランス軍人が中国人ギャングに捕らえられる。部隊の配置を聞き出すため、フランス人の目の前で恋人が拷問されるというグラン・ギニョール的残酷物語。
「こまどり」(ゴア・ヴィダール)
 少年時代の残酷さと後悔を描くショートショート。怪談でも幻想小説でもなく、文学に近い。
「ジェリー・マロイの供述」(アンソニイ・バウチャー)
 ジーンとジェリーは芸人コンビだったが、ジーンが殺人を犯す。その犯行の経緯について証言するジェリー。だがジェリーは実は腹話術の人形なのだった。これも一種のサイコホラーか。
「虎の尾」(アラン・E・ナース)
 無限にものを吸い込む謎のハンドバッグ。それを研究する科学者たちは、向こうにいる「何ものか」を無理やり引っ張り出そうとする。ラストの不気味な展開が星新一の「おーい、出てこーい」を思わせるSF。
「切り裂きジャックはわたしの父」(フィリップ・ホセ・ファーマー)
 語り手の貴族の母は凶悪犯罪者である義理の弟に犯され、アフリカに渡航した後で語り手を出産する。この語り手が、実のところあのターザンとしか思えない。本編はFeast Unknownという長編の抜粋ということなので、この作品についての英語版Wiki記事を見てみると、やはりターザンをモデルにしたキャラクター(名前は違うが)らしい。
「ひとけのない道路」(リチャード・ウィルスン)
 アメリカの田舎を車で走っていた男は、いつのまにか他の人間が誰もいなくなっていることに気づく。二日後にすべて何事もなかったかのように元に戻るのだが、その間何が起きていたのか。男の推測はこの作品を完全なSFにしている。
「奇妙なテナント」(ウィリアム・テン)
 存在しないはずの13階を借りる奇妙なテナント。その階に用事のある人間は簡単にそこに行けるが、ビルの管理人だけはどうしても行くことができない。軽妙でシニカル。いかにもテンらしい作品。これもSF。
「悪魔を侮るな」(マンリー・ウェイド・ウェルマン)
 第二次世界大戦中、ナチスドイツの一部隊がトランシルヴァニアらしき地方のとある城に駐屯する。そこはドラキュラの城だった。
「暗闇のかくれんぼ」(A・M・バレイジ)
 スミーというかくれんぼゲームに、知らない人間が混じっていたという、典型的ゴーストストーリー。
「万能人形」(リチャード・マシスン)
 どうしようもない暴れ者の息子をおとなしくさせるため、万能人形を友達として与える両親。しかし息子に影響されて万能人形も暴れ出す。困り果てた両親は、人形を息子の代わりにしてしまう。最後のオチが傑作。
「スクリーンの陰に」(ロバート・ブロック)
 映画ファンタジー。エキストラに生涯を捧げてきた老人が、スクリーンの中の恋人と一緒になるため、映画の中に入ってしまう。よくある話である。
「射手座」(レイ・ラッセル)
 収録作中一番長い中編。ニューヨークを訪問中のイギリス貴族テリー郷が、フランスで知り合った二人の俳優を巡る奇怪な物語を語る。ジキルとハイド、切り裂きジャック、グラン・ギニョール、二十世紀初頭のパリといった道具立ての中で展開するゴシック的怪奇譚。収録作中で一番クラシックな「怪奇幻想」小説。他の作品とテンポが違うのでやや冗長に感じてしまうが。
「レイチェルとサイモン」(ローズマリー・ティンパリー)
 本書2作目のティンパリー。日本では無名のこの作家を編者はよほど気に入ったらしい。死んだ子どもたちが実在するかのようにふるまう女の話で、やはりサイコホラーみたいなもの。

 マイベスト3は、「不眠の一夜」、「奇妙なテナント」、「万能人形」。

Shingensoutokaiki

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2021年3月 7日 (日)

太陽が消えちゃう

太陽が消えちゃう 気絶悶絶三つ巴リレーSF/川又千秋、横田順彌、岡田英明(いんなあとりっぷ社,1977)
 珍品である。こんな本が出版されていたことを知っている人がどれだけいるだろうか。物好きなオールドSFファンくらいじゃないだろうか。
 若手作家(当時の)3人によるリレー小説。
 第1章だけはかんべむさしが書き、その後を川又、横田、岡田が交代で書き継いでいくという形。岡田英明は、鏡明が当時使っていたペンネームである(鏡明が本名)。
 かんべむさしの書いた第1章は、独特の言葉遊びは頻出するが、ただの零細広告プロダクションを舞台にした業界内幕ものとしか思えない。
 だが、第2章の川又千秋が広告業界のことを知らなかったため、「せめてテーマだけでも、広告の世界からはずして、メチャSFにしてしまえ」と(第1章以外は、各章執筆者による短い前書きがついている)、強引にSFにする。ということで、主人公が実はテレパスで、宇宙人と会見することになる――という展開に。
 第3章の横田順彌は、太陽が実は広告塔で、広告主の白鳥座61番星人がスポンサーを降りることになった――というとんでもない設定を持ち込む。これが「太陽が消えちゃう」というこの作品のメインテーマになるわけだ。
 第4章の岡田英明は、エキセントリックな自衛隊員を登場させるなど、とにかく登場人物を暴走させる。他の作者が造った人物も暴走する。だいたい、3人が交代で書いているのだから、登場人物だって章によって性格や能力が変わったりするのだ。
 この後、タコ型火星人が出てきたり、ケンタウロス型のアルファ・ケンタウリ星人が出てきたり、ミラー・ブライトなる狂人としか思えないアメリカ軍人が出てきたり、話は混乱の度を増す一方。
 最終回を書いたのは岡田英明だが、どういう形であれ、完結したことが不思議なくらい。
 まあ、3人のリレー小説などというものが、まともになるわけがないから、予想されたことではある。そんなわけで、小説として評価されるところは、ほとんどなきに等しい作品。
 昔はこんな遊びをやっていたという思い出話のネタにしかならない。しかしこんな企画が通り、こんな本が出るということは、よき時代だったのかもしれない。
 なお、これが川又千秋と鏡明の初小説出版だったはずである。しかし(本日の時点では)、Wikiの川又千秋の項目には、本書のことは一言も触れられてなくて、なかったことにされている(鏡明と横田順彌の項目には書いてある)。


Taiyougakiechau

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2021年2月23日 (火)

ビッグデータ・コネクト

ビッグデータ・コネクト/藤井太洋(文春文庫,2015)
 ハイテクサスペンス小説。官民共同の巨大システム開発の裏にひそむ陰謀を、刑事と犯罪者のコンビが追う。
 本作は、『SFが読みたい2016』の日本部門11位に入っているが、SF感はほとんどない。おおむね現在のテクノロジーで可能なことしか出てこない。それだけに、誰か本当にこんなことをやろうとしている人たちがいそうで怖いのだが。
「こんなこと」とはどんなことかというと――。

 舞台は関西地方。自治体首長(元検察)と警察幹部が、滋賀県の山中に建設された巨大複合施設「コンポジタ」の住民サービスシステムを悪用して、全国規模の個人監視システムを作ろうとする。彼らの頭だけでそんなことが考えられるわけはなくて、裏にいるのはコンサルタントと称する守矢という男。実は情報犯罪の大物で、そのバックにはさらに大きな力が…。
 ――というような裏事情は、話が進むに連れて徐々にわかってくる。
 最初は、「コンポジタ」のシステム開発の中心人物だった月岡という男が誘拐される事件がきっかけ。「コンポジタ」計画を中止しろという脅迫状と、切り取られた月岡の指が送られてくる。
 さらに事件の関係者として(実は無理矢理関係者にしたてられた)、武岱という男がからんでくる。数年前にコンピュータウイルス事件の容疑者として逮捕されながら、その後不起訴になった男。
 京都府警サイバー犯罪対策課の警部万田は、捜査協力者となった武岱とコンビを組んで、事件を追うことになる――というのがメインのストーリー。
 クライマックスは、「コンポジタ」の情報システムが、武岱の仕掛けによってその恐るべき本性をさらけ出すところ。この場面の劇的効果はなかなかのもの。
 しかし、そこまでの話――特に前半は、錯綜した状況の中でもつれた糸を少しずつ解きほぐすような展開で、少々じれったくなる面もある。登場人物が多い上に、背景の組織が込み入り過ぎていてなかなか頭に入ってこない。バラバラに見えていた要素がつながってくる中盤からは、どんどん話が加速していくのだが。
 そして、複雑にからみあった物語の中から浮き上がってくるのは、情報産業現場の恐ろしい労働実態。そんな現場で「壊れて」しまった二人の男、月岡と武岱が、「コンポジタ」を阻止し、日本にディストピア社会が出現する危機をぎりぎりのところで防いだのだった。
 監視社会のディストピアと情報産業現場の地獄――ITの二つの負の側面を見せつける。面白いんだけど、読んだ後でなんとも暗澹とさせる小説だった。

Bigdataconnect

 

 

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2021年2月 3日 (水)

大航宙時代

大航宙時代 星海への旅立ち/ネイサン・ロ-ウェル;中原尚哉訳(ハヤカワ文庫SF,2014)
 宇宙SFである。タイトルだけ見ると、波瀾万丈のスペースオペラのように見える。だが、実際の話は、宇宙交易船の下級船員たちが、個人に許可された枠内でせこい商売をしているだけという話。邦訳タイトルが盛りすぎもいいところ。
 ネリス星で母親と二人暮らしをしていた18歳のイシュメール・ホレイショ・ワンは、母親の事故死により、住むところも収入も失ってしまう。ネリスは企業の所有する惑星で、会社と無関係になってしまったイシュメールの居場所はないのだ。
 惑星外に働き場所を探すイシュメールは、たまたま宇宙港に入港していた貨物船ロイス・マッケンドリックの最下級船員に採用される。配属場所は、船内の食堂の司厨補助員。
 というわけで、宇宙船のコック見習いになったイシュメールのサクセスストーリーが始まる。船員の最下級クラスは「四半株」で、新人のイシュメールも当然このクラスになる。収益の分配が四分の一人前ということ。これが原題("Quarter Share")にもなっている。出世したら、もちろん分け前が増えていくのである。
 宇宙船での生活に突然放り込まれたイシュメールだが、抜群の適応力を発揮して、船内での評価をどんどん上げていく。うまいコーヒーを淹れたり、資格試験に挑戦したり、寄港地のフリーマーケットでの個人取引を組織化したり――。要するにただそれだけの話である。冒険も異変も動乱も宇宙の神秘も何もなし。
 イシュメールの周囲にいる同僚も上司もいい人ばかりで、船員物語にありがちないじめや体罰や陰湿な人間関係は全然ない。イシュメールのやることなすことうまく行く。本人の才覚だけでなく、周りの人間がどんどん手助けしてくれるのだ。
 こんなに波乱なく何もかもうまくいくSFというのも珍しい。
 それで何が面白いのかという気もするが、少なくとも、それほどつまらないという印象はない。現に、『SFが読みたい!2015年版』のアンケートを見ると、本書を年間ベスト5のひとつに挙げている評者も何人かいるのである。少なくとも、読みやすいことは間違いない。続きが読みたいかというと微妙だが…(ちなみに続編はまだ翻訳されていない模様)。

 なお、本書は"Trader's Tales from the Golden Age of the Solar Clipper"6部作の第一作。 本書"Quarter Share"に続く第2作以降のタイトルは、"Half Share"、"Full Share"、"Double Share"、"Captain's Share"、"Owner's Share"となっていて、タイトルを見るだけでイシュメール君がどんどん出世していくのがわかる。宇宙版『課長島耕作』みたいなものか。

Quartershare

 

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2021年1月22日 (金)

銀河英雄伝説列伝1

銀河英雄伝説列伝1 晴れあがる銀河/田中芳樹監修;石持浅海ほか(創元SF文庫,2020)
 銀英伝の世界を舞台にした中編6編を収録した「公式トリビュート・アンソロジー」。「1」とついてるから、まだ出るらしい。
 作者はSF作家が半分、それ以外が半分。田中芳樹が「監修」となっているが、作家の選定とかに一切関わってないことは、序文から明らかである。

小川一水「竜神滝[ドラッハ・ヴァッサーフェル]の皇帝陛下」
 新帝国暦3年。フェザーン産地でのハネムーンで釣りに興じるラインハルトの姿を描く魚釣り小説。

石持浅海「士官学校生の恋」
 士官学校の卒業を目前に控えたヤン・ウェンリーが、先輩のキャゼルヌに同期生の恋物語を語る。キャゼルヌからその話を又聞きした恋人のオルタンスが、秘められた真相を暴く。ストーリー的には完全にミステリで、オルタンスが安楽椅子探偵の役をしている。

小前亮「ティエリー・ボナール最後の戦い」
 宇宙歴791年だから、本編が始まる5年前。同盟の補給基地が次々と正体不明の艦隊に襲われて全滅する。その敵艦隊を捜索・撃破する任務を与えられたのが同名第九艦隊。司令官はペテルセン中将、分艦隊を率いるのがウランフとボナール。本書の中で唯一、宇宙艦隊戦の場面が出てくる。さすがに田中芳樹の勧めで作家デビューしただけあって、作風が一番本家に近い。

太田忠司「レナーテは語る」
 オーベルシュタインの死後、元執事のラーベナルトが隠棲する田舎家。そこを訪れたのは、かつてオーベルシュタインの部下だった女性レナーテ・ヴァンダーリッヒ。ラーベナルトから形見の品として香水瓶を渡されたレナーテは、オーベルシュタインが殺人事件を解決した思い出話を語り始める。これもストーリーはミステリ。ミステリ作家が書くとどうしてもミステリになってしまうようだ。

高島雄哉「星たちの舞台 」
 収録作中では異色の、演劇小説。ヤン・ウェンリーが士官学校の最上級生だった時、つまり「士官学校生の恋」と同じ時期の話。この話のヤンは、ヒュパティアという音楽学校生と二人で演劇を演じることになる。とにかく演劇の稽古の場面だけがほとんどを占める作品。本編と雰囲気が違いすぎる。それもトリビュート・アンソロジーの味わいかもしれないが…。

藤井太洋「晴れあがる銀河」
 収録作中で唯一、本編の登場人物が一人も出てこない。それもそのはず、ルドルフによる銀河帝国の建国から2年後の話。つまり本編が始まる500年近く前。政府のすべてが軍組織になり、政府による統制と監視が強まっていく、そんな世界が舞台。皇帝からの勅命により、「正統な銀河の航路図」の作成を命じられた帝国軍航路局のアトウッド少尉たちの奮闘を描く。なお、最後にアトウッドが本編に登場するある人物の先祖に当たるらしいことが示唆される。
 さすがに全体のタイトルに選ばれるだけあって、よくできた話。というわけで、この作品がマイベスト。

Gineidenretsuden

 

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2021年1月 6日 (水)

ラッフルズ・ホーの奇蹟

ラッフルズ・ホーの奇蹟(ドイル傑作集5)/コナン・ドイル;北原尚彦、西崎憲編;北原尚彦ほか訳(創元推理文庫,2011)
 以前に本ブログで、この創元推理文庫版<ドイル傑作集>の2冊目にあたる『北極星号の船長』という短編集を取り上げたことがある(2013年8月30日のエントリー)。そっちの方は怪奇小説を集めた一冊だったが、本書はドイルのSF短篇を中心に収録している。
 中身は知らない作品ばかり8編。SFだけでは一冊分に足りなかったのか、どう見てもSFとは呼べないような作品も入っている。

「ラッフルズ・ホーの奇蹟」
 全体の半分近くを占める長い中編。イングランド中部の田舎町タムフィールドに突然やってきた謎の大富豪ラッフルズ・ホー。無限に湧き出る富を惜しげ無く人々に分け与えるが、そのために地域の人々は堕落し、人生を狂わせる。ラッフルズ・ホーと偶然知り合ったロバートとローラの兄妹を通して、ホーの慈善とその挫折を描く。ホーの富の源泉が、元素変換技術――文字通りの錬金術だったというところがSF。
「体外遊離実験」
 科学者と助手の青年が魂の離脱実験をしたところ、二人の心が入れ替わってしまう。二人がしばらくの間それに気づかず行動したために大混乱が起きる、というドタバタ劇。しかし自分の体でないことに、なぜすぐ気づかないのか不思議。
「ロスアミゴスの大失策」
 世界最大の発電所を誇るロスアミゴスの町で、一人の悪人が死刑になる。処刑方法は、発電所の最大電力を使った電気ショック。しかし電気エネルギーを吸収した男は不死身になってしまうという、ブラックなコメディ。本作が発表されたのは1892年で、アメリカで初めて電気椅子による死刑が執行されてから2年後。発表当時は時事ネタだったのだ。
「ブラウン・ペリコード発動機」
 飛行機械を巡る発明家二人の争いの果てに、一人が殺される。せっかく完成した飛行機械は、死体を人知れず処分するために使われるのだった。1892年の作品で、ライト兄弟による飛行機が初飛行に成功する11年前。しかし本作に出てくるのは羽ばたき式飛行機。
「昇降機」
 600フィートの高さにそびえる展望塔に昇って行く昇降機。しかし気の狂った技師が昇降機を途中で止め、ワイヤを切ろうとする。乗客の必死の脱出劇を語るスリリングな話。しかしSFではない。
「シニョール・ランベルトの引退」
 嫉妬深い男が、妻との浮気相手だと疑ったオペラ歌手の喉を手術で傷つけ、声をだいなしにしてしまう。それだけの話。医学がからむ話ではあるが、SFではない。
「新発見の地下墓地」
 考古学者が、自分の発見したローマの地下墓地に、恋人を奪った男を誘い入れ、二度と帰れない迷宮の奥に放置するという復讐譚。これも一種のミステリであって、SFではない。
「危険!」
 1914年、第一次大戦の勃発直前に発表された未来戦記。潜水艦による通商破壊作戦の脅威を警告している。わずか8隻の潜水艦しか持ってない小国とイギリスが戦争し、イギリスに食糧を運ぶ輸送船が次々と撃沈される。結局、兵糧攻めでイギリスがギブアップしてしまうのである。現実には、第一次世界大戦時のイギリスはドイツのUボートによる津相破壊作戦に耐え抜いている。いくらなんでもそんなことになるはずがないのである。しかし話としては面白い。

 というような内容で、SF短編集というにはやや疑問が残るのだが、バラエティに富んだ作風が楽しめるという点では、値打ちがあるかもしれない。マイベストは「体外遊離実験」。ドイルがこんなマンガみたいな話を書いていたのが意外。

Raffleshaw

 

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2020年11月23日 (月)

幻綺行

幻綺行 [完全版]/横田順彌(竹書房文庫,2020)
 明治時代、自転車で世界一周無銭旅行に挑戦した中村春吉を主人公にした秘境冒険SF。『SFアドベンチャー』に連載された連作短篇をまとめたもの。1990年に単行本が出ているが、その時には収録されてなかった2編を追加した「完全版」。
 主人公中村春吉は実在の人物がモデルだが、無謀な冒険に乗り出すだけあって、本書での性格はバンカラで向こう見ずで衝動的な熱血漢。後先考えずに行動する。はっきり言ってバカである。本当にこんな人物だったかどうかはわからない。
 この中村春吉がパレンバンで出会った石峰省吾と雨宮志保とともに、世界各地で怪物たちと戦うという話。だから個々の話は完全なフィクション。
 春吉の一人称(「我輩」)で語られる大時代な文章が、いかにも明治人らしい思考、そして語彙にあふれていて、実に内容によくマッチしている。

「聖樹怪」
 自転車世界一周中の春吉は、パレンバンで娼館から志保を救い、山田長政の秘宝を探す石峰青年と出会う。その秘宝があるという密林の奥で彼らが遭遇したのは、人間を操って受精の道具に使ったあげく食ってしまう怪植物。
「奇窟魔」
 宝探しを続ける石峰と別れた春吉と志保は、ネパールの奥地で若い娘を連れ去る謎の寺を探索。そこでは僧たちが、さらってきた娘たちを頭だけが動物の奇怪な姿に改造していた。春吉と志保は、(都合よく)再登場した石峰と協力して悪僧たちを退治する。
「流砂鬼」
 志保と石峰を道連れにして春吉の世界一周は続く。自転車でペルシャの荒野を横断する三人。当然無事にすむわけがなく、大砂嵐に襲われ、地下の大洞窟に落ちる。その奥には高度なテクノロジーを思わせる遺跡があった。そこへ襲ってくる砂でできた怪魔像。春吉がこの強敵を撃退する手段がすごい。
「麗悲妖」
 しばらく一人で行動していた春吉はロンドンで志保と再会する。ペテルブルグに友人を訪ねて行ったという石峰を追って、二人はロシアへ。石峰の訪問先は松尾という日本人と、その新婚の妻エヴグーニヤだった。このエヴグーニヤの挙動が不審、実は彼女は魔物と化していた…。収録作中唯一、秘境ものではない。
「求魂神」
 南アフリカに向かう途中、マデイラ島に滞在する三人。島の高山ピコ・ルイボ山に登山中、黒い影にのみこまれる。気づくとそこは地上に着陸していた宇宙船の中。今度の敵は、地球人の魂を食料とする宇宙人なのだった。収録作中一番SFらしいSFで、珍しく文明批評的な終わり方をする。それはいいのだが、「流砂鬼」の怪魔とこの宇宙人の弱点が同じというのは、ややワンパターンなのでは。
「古沼秘」
 南アフリカに着いた三人。大蛇に襲われたりダイヤ鉱山を訪れたりいろいろあった後、モザンビクからザンジバルへと向かうことに。ところが途中、現地人が恐れる沼のほとりで露営していた時、やっぱりというか怪物に襲われる。今度の相手は巨大な蟹。ということで、最後のエピソードはごく単純な怪物ものだった。あるいは原点に戻ったと言うべきか。

Genkikou

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2020年10月17日 (土)

光瀬龍の怪作ふたたび

魔道士リーリリの冒険/光瀬龍(光風社出版,1993)
 以前に本ブログで光瀬龍の『異本西遊記』という変な小説を紹介したことがあるが(2009年3月6日のエントリー)、本書はそれに輪をかけた怪作である。
 そもそもブログ主は、光瀬龍にこんな作品があったこと自体知らなかった。近所の図書館でたまたま見つけて、なんとなく借りて読んでみたのである。正直言って、別に知らないままでいてもかまわなかった気がする。

 主人公リーリリは、見た目は「大人にはまだだいぶ間が有りそう」な少女。だが、実はかなり長い間生きているらしく、真の年齢は不詳、出自不明。驚異の身体能力を備え、得体の知れない術を使い、古今東西の知識に通じ、バラバラになってもペシャンコになっても復活する、魔道士というより妖怪じみた超能力者である。
 そのリーリリが、相棒の白い犬ポンポン(これまた自在に変身する超能力生物)とともに、時空を超えて活躍する連作短編集。全7話。

 第1話「さすらいのリーリリ」は、いつどことも知れない異世界が舞台。怪現象により無人化したセリス盆地に向かう旅人黎莉莉[リーリリ]とポンポン。怪異の原因を作ったたキノコ人間たちと戦うことになるが、退治方法がとんでもない。
 第2話「ニューヨーク裁判物語」では、舞台は一転して20世紀のニューヨーク。リーリリはなぜか弁護士事務所をやっている。そこへやってきたのがガーゴイルそっくりの見習悪魔ヒドロゾア、セント・バルキリー教会のガーゴイルを肖像権侵害で訴えたいという。
 第3話「雨ぞ降る」は、また異世界の話。いつ果てるともしれない雨が降り続くサッサミメア王国。その都にやってきたリーリリは、怪しげなレインコートの謎を追って王宮に入り込み、国を乗っ取っていた宇宙から来たナメクジと戦うことになる。ナメクジ嫌いの人には耐えられない話。
 第4話「Lidyの夜」は、珍しくベッドシーンから始まる。また20世紀のアメリカの話だが、第2話よりは少し後の時代らしい。リーリリはいつのまにかサンフランシスコで「何でも承ります」屋をやっている。今度の相手は上院議員の愛人ウオルベリン・ピーチ、実は古代から生きている不死の魔物。
 第5話「悪魔は夜来る」。またしてもアメリカが舞台で、年月日がはっきり書かれている。1989年12月3日、ニューヨーク市ロングアイランドで開催中の世界SF大会で惨劇が起きる。自動販売機からバラバラになった人体の手や足や首がころげ出てきたのだった。警察もお手上げで、リーリリに調査が依頼される。
 ちなみに、1989年のワールドコン(世界SF大会)は、実際にはその年の8月から9月にかけてボストンで開催されているので、この作品とはまったく関係ない。
 第6話「大江戸喪神記」。今度は元禄時代の江戸が舞台。リーリリは長屋に住んでいて「おりり」と名乗っている。唐物商西海屋が輸入した西洋の「仏像」、実はサタンとガブリエルの像。この二つの像がもたらす怪現象にリーリリたちが挑む。著者はやはりこういう時代ものが好きなのか、このエピソードは心なしか文章が生き生きしているような気がする。
 第7話「ベイレオキンクスの陰謀と逆襲」。最終話は、またしてもどこかわからない世界。一面の廃墟と化したカコープス王国にやってきたリーリリとポンポン。没落したかつての王から依頼され、王国滅亡の謎を探ることになる。最後にリーリリは、彼女とそっくりの「恐怖王」と対決することになる。
 このエピソードでリーリリの正体らしきものがやっと明かされるのだが、全体としてやっぱりわけがわからない。しかしこのメチャクチャな世界にも、一抹の詩情というか、光瀬龍らしさが漂っているのである。

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2020年10月 9日 (金)

文豪宮本武蔵

文豪宮本武蔵/田中啓文(実業之日本社文庫,2020)
 巌流島で佐々木小次郎を倒した宮本武蔵は、その後、病弱な小次郎の妹、夏に同情し、彼女の生活を援助していた。とはいえ、浪人の身で自分の生活も苦しい武蔵。士官を求めて江戸に出て、柳生宗矩に勝負を挑むが、返り討ちにあい、殺されそうになる。
 死んだかと思ってふと気がつくと、なぜか明治時代にタイムスリップしていた武蔵。いきなり通りがかりの女にぶつかる。女は夏にそっくりで、やはり名前も夏子と名乗る。実は女流小説家で、ペンネームは樋口一葉――。
 さらに武蔵は通りがかりにたちの悪い学生たちにからまれている男を助ける。その男の名は正岡子規。子規の家に招かれると、そこには夏目金之助という男が来ていた。よくまあ、文学史に名の残る人たちにうまく巡り会うものである。
 子規と金之助(漱石)に対して、武蔵は過去から来たなどと本当のことを言うわけにもいかず、小説家を目指して東京に出てきたとでまかせを口にする。
 その後、人力車夫として働くことになった武蔵。樋口一葉から借りた『たけくらべ』を読んでめちゃくちゃ感動する。「俺もこういうものを書いてみたい」という衝動が武蔵の中にわきあがる。武蔵は自分が言ったとおり、小説家への道を歩み始めるのだ。
 ――というところで約半分。
 その後いろいろあって、武蔵は『蒸気力車夫』という小説を書く。そして刊行されるや大いに売れるのだった。
 さらに第二作、『時を駆ける武士』を出した直後、かねてから因縁のあった悪徳代議士大山とその用心棒桑本との争いで武蔵は背中を刺されてしまう。もう死ぬのか、と思ったら、なぜか江戸時代に帰っていた。もう理屈も何もない。そういうものなのである。
 江戸時代で武蔵を待っていたのは、若死にした樋口一葉の霊の力で元気になった夏だった。なんともご都合主義だが、もともと設定がぶっ飛んでいるのだから、あまり気にならない。自分の時代に戻った武蔵は、その後ほぼ史実と同じ人生を送る。最後に武蔵が生涯の最後を飾る『五輪書』を書くところで終わり。しかしここに著者お得意のダジャレが仕込まれていたのである。それまで、珍しくダジャレが出てこないと思ったら、最後の最後でかましてくれたのだった。
 まあ、最後のダジャレを別にすれば、(田中啓文にしては)わりと普通のタイムスリップ小説と言える。江戸時代から来た人間がいきなり小説を書けるのかという疑問は、この際考えてはいけないのである。

Bungoumiyamotomusashi

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2020年8月10日 (月)

宇宙飛行士オモン・ラー

宇宙飛行士オモン・ラー/ヴィクトル・ペレーヴィン;尾山慎二訳(群像社ライブラリー,2010)
 1992年に出版されたロシアの小説。ソ連時代の架空の宇宙飛行計画を中心とした小説だが、SFというより不条理小説に近い。
 父親から変わった名前をつけられたオモン・クリマヴァーゾフは、少年時代から宇宙飛行にあこがれ、高校を出ると親友のミチョークとともに宇宙飛行士になるために航空学校の試験を受ける。
 ザライスクという町の試験会場で、オモンは一人の老人に話しかけられ、「宇宙に行くってのは並大抵じゃないぞ。お国に命まで求められるかもしれん」と言われる。「やるべきことをやるだけです」とオモンは答えるが、これが文字どおりの意味だということが、後でわかるのである。
 そしてオモンとミチョークが試験に合格して宇宙飛行士訓練生になった途端に、悪夢が始まる。訓練生たちはまず足を切られる。意味のわからない講義と訓練が続く。やがてソ連の宇宙飛行の真実がわかってくる。
 ソ連のロケットは人間の犠牲の上になりたっていたのだった。ロケットの切り離しは各段ごとに人間が操作していて、もちろんその人間は直後に死ぬのである。
 オモンは「無人月探査機」ルノホートに乗り込んでそれを操作する役を割り当てられる。自転車みたいにペダルをこいでルノホートを動かすのだ。地球に帰る手段はないから、最後に空気も食糧も尽きたら自殺するしかない。ひどすぎる話である。
 親友のミチョークは、そんな殺人ロケットにすら乗せてもらえず、「前世試験」というわけのわからない試験で危険分子と見なされて射殺されてしまう。
 オモンは何人もの仲間の死の果てに月の裏側に着陸、何十日もルノホートのペダルをこぎ続けて目的地に到着し、無線標識を設置する。これで後は死ぬだけなのだが、自殺用の銃は不発。そしてオモンは月面のはずの周囲の様子がおかしいことに気づく。
 結局、ソ連宇宙計画のとんでもないインチキがオモンの前で明らかになる。秘密を知ったオモンを殺そうとする政府の手先たち。追われるオモンが最後に行き着く先は…。
 地獄のような宇宙計画の果てに待ち構える大ドンデン返し。だが実のところ、前半の描写と後半の展開が矛盾するところも多く、そもそも最初の試験のところからすべてがオモンの妄想だったとも解釈できる。

 それにしても、ソ連崩壊の直後に、ソ連政府と共産党の信じがたい非人間性と冷酷さ、教条主義、形式主義をパロディ的に暴き出し嘲弄する、こんな作品が出ていたとは。

Omonra

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