信長の野望
信長の野望/童門冬二(光栄,1990)
前に紹介した吉岡平の『提督の決断』(2008年11月9日のエントリー)と同じく、光栄のゲームから派生した架空歴史小説。ただし、この本は「歴史ifノベルズ」だが、『提督の決断』は「歴史キャラクターノベルズ」だった。どう違うのかよくわからない。
それにしても、童門冬二とは、また大物をひっぱってきたものである。内容がそれにふさわしいかというと、また別の話。
物語は本能寺の変から始まる。この物語の信長は、抜け道を通って本能寺から脱出、博多に身を隠す。大筋は、この生き延びた信長が、なぜか性格も思想も一変し、平和的な全国統一に乗り出す、というもの。冒頭の本能寺の変の場面を除いては、合戦シーンが全然出てこない。
それはそれで、ユニークな架空歴史もの、というか本来の改編歴史SFに近いとも言える。が、問題は、内容があまりに変なところである。つっこみどころ満載。
ところどころ文章が変だったり、登場人物たちがみんな現代語でしゃべっていること(「あなたは」なんて平気で言ってる)は、目をつぶることにしても、である。いくらなんでも変だろう、というところが目につく。例えば、次のようなところ。
・本能寺の変の後、徳川家康が茶屋四郎次郎の案内で帰国に成功したという記述の後で、「四郎次郎は、家康が天下を取った後、商人代表のブレーンとして、いろいろな知恵を家康にもたらす」とある。だが、この作品では信長が生き延びているのだから、秀吉も家康も天下を取らない。これが架空歴史小説だということを忘れているのでは。
・本能寺の変の情報を掴んだ羽柴秀吉が山崎で明智光秀を破るあたりまでは、実際の歴史と同じなのだが、この時秀吉のライバルとして名前が挙がる信長の重臣の中に、林通勝が出てくる。しかし林通勝は、この時すでに追放されているはず。
・単なる校正ミスからも知れないが、川尻秀隆が「田尻秀隆」と書かれている箇所がある。ご丁寧に「たじり」とルビまでふっている。
・信長が家臣たちの前で「府構想」なる日本の新しい政治体制を述べる時、口にした地名の中に名古屋や高知がある。名古屋も高知も江戸時代に入ってからの名称なので、この時代、そんな地名はないはず。
・織田長益(有楽斎)について、現在の東京の地名(有楽町)になっているとの説明がある。しかし、この物語では歴史が変わっていて、そもそも江戸に幕府が置かれる可能性がなくなっている。織田長益が江戸に住む理由もないし、江戸が後に「東京」になる必然性もない。上の茶屋四郎次郎の件と同じで、架空の歴史を語る物語の中で、実際の歴史の延長線上の「現在」を語ると整合性がとれなくなるのだ。
・「岩代」や「磐城」という旧国名が出てくる。この二つの国名は明治維新後にできたもの。この時代にあるはずがない。
こうした、思わず首をかしげたり苦笑したりしたくなる箇所の数々に加えて、全体的に、作者のやる気が感じられない。『提督の決断』もあまり作者のやる気を感じない小説だったが、この作品はさらに輪をかけてそんな雰囲気がある。まあ、時代小説のベテランがゲーム会社の依頼する架空歴史小説に、乗り気になれないのもわかるが...。
ある意味、珍品と言うべき本である。

























































