2006年2月に日本城郭協会が「日本100名城」を発表した。これは新聞などでも報道されたので、一般的にはこれが「公式版・日本100名城」のように受け取られている雰囲気もあるが、実のところ、世の中に何種類もある「日本100名城」の一つに過ぎないのではないいかと、私などは思うのである。だいたい、「各都道府県に1以上、5以内」なんて制限をつけるあたりで、もう何か違うでしょう、と言いたくなる。それじゃ城自体の価値による公平な選定にならない。
まあ、この点について今更あれこれ言っても仕方がないが、この発表に前後して、「日本100名城」を扱った本がいくつか、新書や文庫で出ている。それぞれ著者が違うので、当然ながら選定された「100名城」の中身も違うわけである。「100名城」というのは選ぶ人の数だけある。100人の城好きが選べば、100種類の「100名城」ができるだろう。元々そういうものなのだ。
日本百名城/中山良昭(朝日文庫,2004)
「ありそうでなかった日本全国の「お城」のガイドブック」とカバー裏にあるが、確かに、文庫本でこういう本はありそうでなかった。この手の本はえてして城そのものよりも、城にまつわる歴史エピソードの羅列になりがちなのだが、この本は「城そのもの」の紹介、特に縄張りや防御体制の説明をメインとしているのは好感が持てる。すべての城の縄張り図がついているのもいい。
ただ、日本の城から100を選ぶということで、「どうしてあの城が入ってないんだ」と言いたくなる部分があるのも確か。こればかりはどんな選び方をしても、どうしようもないだろうが。
全般的に個別の建物よりも、城全体としての構造(縄張り)から見て見るべき点のあるものを選び、それに歴史的重要性や遺構の状態などから判断して選んでいるようだ。全般的に、模擬天守などのある城ははずされているようで、それは一つの見識だろう。縄張り重視型100選というところか。
名城の日本地図/西ヶ谷恭弘(文春新書,2005)
ブームの「名城本」に、ついに城郭研究の大家、西ヶ谷恭弘登場、というところ。北から南へ、100の名城を取り上げて解説しているのだが、記述は歴史と城自体との説明をバランスよく配し、なおかつ探訪ガイドも兼ねていて無駄がない。逆にいえば無駄がなさすぎて面白みがない面もある。しかし城ひとつについて2~4ページしか(しかも写真も入れて)使えないのだから無理もないか。
選定の傾向としては、現状重視というか、遺構として見応えのある城が選ばれているようで、富山城や大多喜城みたいな、模擬天守のある城も選定されている。現状・建物重視型100選と言える。
日本の百名城/八幡和郎(KKベストセラーズ・ベスト新書,2006)
またしても出た「名城百選」。この手の本はそれぞれセレクトの仕方に独特の見地があって、そこがおもしろいのだが、この本もまた、ユニークな点がいくつか。
一つ目は、近世城郭に限っていること。だから千早城も春日山城も出てこない。
二つ目は、現状の残存状況だけでなく、「本来そうあるべきだった姿」を基準にしていること。だから跡形もない尼崎城や古河城、長岡城、聚楽第、ほとんど残存してない田中城、伏見城などが入っている。そればかりか、鯖江城みたいに、計画だけで実際には建てられなかった城まで選ばれている。
三つ目は、これがこの人のセレクションの最大の特徴なのだが、史実に必ずしも忠実でなくても、見栄えがよければ名城として高く評価していること。典型的なのが唐津城。ここの天守は本来なかったはずのもので、要するに模擬天守なのだが、「本邦唯一絵葉書になる城」と絶賛している。「こんなに美しいのだから歴史的な由緒などなくてもいい」と。
城の本で、ここまで言い切ったものを他には知らない。「ビジュアル第一主義」とでも言おうか。「見栄えよくするためには城の周囲の木を切るべき」というのは、なるほどそうかと思う。史実にない天守を作ることについては賛否両論あるだろうが、こういう見方もあるというのは、素直に受け止めたい。景観重視型100選。
ところで、100名城が選定する観点によっていくら違ってくると言っても、不動のメンバーみたいなものはやはり存在する。いくら独自の基準で選ぶからと言っても、姫路城や松本城や熊本城が入って来ない、なんてことはあり得ないわけで、日本城郭協会と上の3冊の本の「100名城」、すべてに共通する城が50くらいある。このへんが「日本の基本名城」ということになるのだろう。
ちなみにすべてに共通していた城というのは、次のとおり(北から順)。
五稜郭、松前城(北海道)、弘前城(青森)、盛岡城(岩手)、仙台城(宮城)、山形城(山形)、会津若松城(福島)、水戸城(茨城)、江戸城(東京)、小田原城(神奈川)、甲府城(山梨)、上田城、松本城(長野)、新発田城(新潟)、金沢城(石川)、一乗谷城(福井)、駿府城、掛川城(静岡)、犬山城、名古屋城、岡崎城(愛知)、伊賀上野城(三重)、彦根城(滋賀)、二条城(京都)、大阪城(大阪)、姫路城、赤穂城(兵庫)、和歌山城(和歌山)、鳥取城(鳥取)、松江城(島根)、津山城、備中松山城、岡山城(岡山)、福山城、広島城(広島)、萩城(山口)、徳島城(徳島)、高松城、丸亀城(香川)、今治城、松山城、大洲城、宇和島城(愛媛)、高知城(高知)、福岡城(福岡)、佐賀城(佐賀)、島原城(長崎)、熊本城(熊本)、大分府内城(大分)、鹿児島城(鹿児島)、首里城(沖縄)
こうして見ると、日本で一番名城が多いのは、愛媛県か?