戦記・軍事

2019年9月27日 (金)

嵐の中の北欧

嵐の中の北欧 抵抗か中立か服従か/武田龍夫(中公文庫,1985)
 第二次世界大戦期の北欧4国の苦闘を語る歴史ドキュメンタリー。
 著者は歴史家ではなく元外交官。北欧諸国には特に強い思い入れがあるらしい。
 その思い入れの強さをうかがわせるのがまえがき。
 北欧4国の第二次世界大戦中の運命について、簡単に概要を述べた後、各国の苦難の歴史に感嘆の言葉を捧げているのだ。
 フィンランドについては、「大国間の争いに巻き込まれながらもたくましく生き抜いてきた軍事、外交の叙事詩的ドラマは、我々を感動させずにはおかないのである」
 ノルウェーについては、「その屈辱と栄光を生きた苦難の中の現代のバイキング魂は、我々を賛嘆せしめずにあおかないのである」
 スウェーデンについては、「甘美な中立の理想主義がいかに苦悩と屈辱にみちた生存のための戦いであったかの「中立外交の素顔」は、我々を瞠目させずにはおかないのである」
 そしてデンマークについては、「被占領の服従から、国家、国民としての自立と誇りに目覚めてゆく一国民の挫折と名誉回復の過程は、我々の同情と敬意を求めずにはおかない」と。まあ、スウェーデンの場合は誉めているのかどうか、やや微妙だが。

 本文は、以上の4か国をこの順番で記述。
 最初のフィンランドが約100ページと一番ページ数が多く、全体の3分の1くらいを占めている。それだけ書くことも多いということだろう。何しろ、北欧諸国の中でフィンランドだけが、第二次世界大戦のほぼ全期間を通じて戦争を続けていたのだ。また、枢軸側で戦った唯一の国でもある。内容はもちろん、ソ連との二度にわたる戦争、「冬戦争」と「継続戦争」が中心。
 ノルウェー(本書の表記では、ノールウェー)は約60ページ。前半はドイツの侵略とそれに対する抗戦。後半はドイツ占領下の抵抗の日々。もっぱらこの国のしぶとい戦い方を讃えている。「ノールウェーは他のどの大陸諸国よりも長期間ナチス・ドイツ軍の電撃作戦に抵抗したのである。六十三日間にもわたって! ポーランドは二十九日間であり、フランスは三十九日間であり、ベルギーは十九日間、オランダは四日間、そしてデンマークはわずか四時間であった」(p.109)。
 スウェーデンもノルウェーと同じくらいの分量。この国は第二次世界大戦で最後まで中立を保ったが、それがいかに危うい、奇跡のような僥倖に助けられたものだったかを語っている。当然ながら、戦争ではなく外交が記述の中心。戦争前半は、ドイツ軍の領土内通過を黙認させられるなど、ナチスドイツにやりたい放題にされながら、形ばかりの中立を守る。それが後半になると一転して連合国に接近していく。スウェーデンのしたたかさと、ある意味の冷徹さがうかがえる。「もし中立が交戦国に対する公平を意味するなら、スウェーデンは中立を守らなかった。前半はドイツを助け、後半は連合国側を援助した」(p.206)。
 それにしても、大戦争の中で中立を守るということは、戦わないのではなく、中立という形で戦っているのだということがよくわかる。
 最後はデンマーク。50ページ足らずと、一番短い。戦争はほとんどしてないし(四時間で降伏)、レジスタンスも前半は不活発で、あまり書くことがないのだった。正直言って、北欧諸国の中で一番情けない。しかし著者は、戦争には向かないが穏やかなデンマークの民族性をずいぶん誉めそやしている。その書き方にはデンマーク愛みたいなものを感じるほど。著者はこの小国が心底好きらしい。

Arashinonakanohokuou

 

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2019年7月 6日 (土)

「砂漠の狐」ロンメル

「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨/大木毅(角川新書,2019)
 有名なわりには、その人柄や人生があまり知られてない(気がする)エルヴィン・ロンメルの評伝。まあ、それを言えば、第二次大戦で有名な他の将軍だって、実際にどんな人物なのかよく知らない人がほとんどなのだが。

 まず、短い序章「死せる狐」で、ロンメルの死の場面を描き、続いてこれまた短い第一章「ロンメル評価の変化」で、ロンメルの偶像化、批判、再評価の歴史を追う。
 ここまではいわばプロローグで、次の第二章「「アウトサイダー」ロンメル」からが、伝記の本編になる。この章では出生から始まって軍への入隊、結婚まで。ロンメルがヴュルテンベルク出身の、ドイツ軍人としては傍流であったことや、女性関係など、もっぱらプライベートな面に触れている。
 第三章「第一次世界大戦のロンメル」は、第一次大戦での歩兵指揮官としてのロンメルの活躍を語る。この大戦でロンメルは中隊・大隊の指揮官として前線で奮戦、優れた作戦能力とともに、独断専行や自己顕示欲といった特徴も見せるようになる。終戦までに大尉まで昇進。
 第四章「ナチスの時代へ」。大戦間、敗戦国ドイツの軍隊でも将校としてとどまることができたロンメルだが、12年間も大尉のまま。地方出身、参謀教育を受けてないなど、不利な条件がいろいろあったらしい。エリートコースとはほど遠い軍人だったことがわかる。しかしヒトラーのお気に入りになって急に昇進、第二次大戦直前に少将になる。
 第五章「幽霊師団」で、ついに第二次大戦勃発。ポーランド戦では総統大本営護衛隊長として前線に出なかったロンメルだが、西方作戦では装甲師団を率いて戦果をあげる。しかし著者の評価ではここまでがロンメルの限界だったとのこと。「つまり、勇敢さであるとか、前線での状況掌握能力といったロンメルの長所が問題なく発揮できたのは、第七装甲師団長時代までだったのだ。戦術的には非の打ちどころがなくとも、より高いレベルの指揮をゆだねられるにつれ、戦略次元におけるロンメルの思考の乏しさは露呈していく」と、かなり厳しい評価を下している。
 第六章「ドイツ・アフリカ軍団」では、いよいよロンメルの名を高めたアフリカ戦線へ。ここから第九章「アフリカの落日」までがアフリカの話。
 イギリス軍との死闘が続く中、補給を軽視して積極的な作戦に出るロンメルに軍内部での批判は高まるが、ドイツ国内では英雄として人気沸騰。決して豊かとは言えない戦力でイギリス軍を押し返し、アレクサンドリアに迫る勢いでイギリス領内に攻め込んで行った「砂漠の狐」の活躍について詳しく説明する必要はないだろう。
 しかし著者の評価は、「彼は、戦術・作戦次元では傑出した指揮官であった。けれども、戦略次元では、兵站を軽視、というよりも無視した行動をなす、無謀な司令官であったと評さざるを得ない」と、やはり手厳しいのである。
 確かに、ドイツ軍の攻勢もエル・アラメインで限界に達し、その後は後退を重ねるだけになったのは事実。しかもこの大事な時にロンメルは健康を害して療養に入ってしまう。ここから後のロンメルの人生は、正直言ってもう落ち目になる一方。
 第一〇章「イタリアの幕間劇」では、イタリアに派遣されるロンメルだが、たいしたこともできないまますぐに引き上げる。相変わらず健康はすぐれず、ヒトラーとの関係も悪化していく。
 事実上の最終章、第一一章「いちばん長い日」。連合軍のフランス上陸が予想される中、「進攻方面防備特務査察監」に任じられたロンメルだが、結局上陸地点の予測ははずれ、肝心な日には現場を留守にしていた。もう全然役に立ってない。
 そして序章で語られたように、最後はヒトラー暗殺計画への関与を疑われて自殺することになる。実際にロンメルが関与していたかどうかはまだ論争が続いているが、著者は関与説。
 いずれにしても、ロンメルは最後は軍人として実に冴えない終わり方をしたわけである。
 ただ、終章「ロンメルとは誰だったのか」で著者はロンメルについて、「戦場倫理が正当なものであった」ことを称えている。これまでも書いてきたように軍司令官としては欠点があったものの、その人柄は英雄と呼ばれるに値するものだったというのだ。墜ちた英雄に向けての、せめてもの賛辞だろう。

 

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2018年9月13日 (木)

伊号58帰投せり

伊号58帰投せり 太平洋戦記/橋本以行(河出書房,1967)
 だいぶ前、本ブログでは1945年7月30日に撃沈されたアメリカの巡洋艦インディアナポリスについて書かれた2冊のノンフィクションを取り上げた(2008年7月30日のエントリー)。
 本書は、そのインディアナポリスを撃沈した潜水艦「伊58」の橋本艦長自らが書いた回想記。この本は再刊で、最初は1952年に鱒書房というところから刊行されたもの。さらにこの本の後にも、朝日ソノラマや学研などから何度も再刊されている。戦記としてかなり人気がある本だったようだ。

 内容は、真珠湾攻撃から終戦まで、日本海軍の潜水艦作戦の実態を現場の目から書いたもの。潜水艦に自ら乗った者ではわからないような知見がたっぷりと含まれている。
 ただ、読んでいて困ったのは、著者自身がどこにいたのか、時々わからなくなること。明らかに著者自身は乗ってないはずの潜水艦の行動が、自分が体験したかのような書き方で語られている。一方、著者自身の潜水艦の行動が、なんだか他人ごとみたいに書いてあったりもする。全体として、主語をはっきり書いてないのである。
 要するに、「いつ、誰が体験したことなのかよくわからない」という、ドキュメンタリーとしては実に困った欠点がある。
 とはいえさすがにインディアナポリス撃沈のあたりは、著者自身の体験が生々しく描かれている。だが一方で、終戦を受けて作戦を終了後、国内に帰還する場面は、実にあっさりしたもの。「八月十七日平生特攻基地に帰り投錨した」と書いてあるだけ。
 タイトルに「帰投せり」と書いてあるのに、帰投の具体的な場面描写はないのだった。
 著者は戦後、インディアナポリスの艦長を裁く軍法会議の証人としてアメリカに渡る(というか、否応なしに召喚される)のだが、その証人喚問の場面は、当事者でなければ書けないもの。ある意味本書のハイライトのひとつとも言えるが、それも期待したほど詳しくはない。このへんはもう少し長くてもよかった。アメリカ側の人々の、著者への対応ぶりがいろいろと面白い。
 最後に著者は結びの部分で、日本海軍の潜水艦作戦のまずさを悲憤をこめて批判――というか告発している。

 実のところ、ノンフィクションとしては決して出来がよくはない。上にも書いたように、誰の体験を書いているのかよくわからない。記憶に頼って書いているせいか、ところどころ事実誤認もある。
 要するに素人の文章ではあるのだが、貴重な歴史の証言であることは間違いない。

I58kitouseri

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2018年7月27日 (金)

豊田穣『激戦地』

激戦地/豊田穣(集英社文庫,1981)
 太平洋戦争を背景にした短編集。
 戦争を生き残った主人公が過去を回想するパターンが多いのは、著者自身が捕虜になって戦争を生き抜くという体験をしたためか。
 収録作品は8編。

「中隊長、仇はとりました――ウエーキ島戦記」は、ウェーク島上陸作戦の苦闘と激戦をドキュメンタリー・タッチで描く作品。
「荒野の人」は、西部太平洋のT島で連合軍パイロット殺害の罪に問われ、戦犯で服役した宇田という男が主人公。宇田には上官に自分の罪をかぶせて死刑に陥れてしまった負い目があった。罪の意識に苛まれながら戦後を生きる軍人の索漠とした心象が綴られる。
「消えた操縦士」。故障で土佐湾に不時着水した艦爆が、操縦士ごと海に沈んだ。操縦士小川の上官だった平野は、状況に不審を抱き、事故は偽装で、小川は生きているのではないかと疑う。戦記というより、戦争を背景にしたミステリに近い話。
「腕立て兵曹」は、戦後20年目の出来事を語る、学徒兵を腕立て伏せでしごいていた大江兵曹を、生き残りの兵隊たちが戦友会に招待する。目的は復讐に近いものだった。大江のしごきのために死んだ兵士の母親の前で、無理やり腕て伏せをやらされる大江。20年経っても恨みは消えないという、やりきれない話。
「ラバウル観音」も、戦後20年目の話。佐世保に暮らす女性菊代には、かつてラバウルで慰安婦をしていた過去があった。今ではほとんど顧みられることのない日本人慰安婦の物語。
「海軍特別年少兵」は、硫黄島で洞窟にこもる海軍特年兵が主人公。最後は負傷して捕虜になり、戦後に帰還する。実際の体験談を元にした話らしい。
「海軍下宿の女」。佐伯の海軍下宿の娘孝代の上を通り過ぎていった何人もの海軍軍人たち。孝代の前で戦争が始まり、おわる。話は戦後にまで続き、軍人たちとの因縁は続く。なんだか長編小説になりそうな話。
「飛行長夫妻自刃す!」。最後は終戦直後の厚木航空隊の反乱の話。部下の反乱・脱走という事態に、濱田飛行長は妻とともに自決する。救いがない。

 戦記小説というより戦争文学と言いたくなる、文学性の強い作品が集まっている。読みごたえはある。ただ、どの話も暗い、あまりに暗い。

Gekisenchi

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2018年7月19日 (木)

本当にあった!特殊兵器大図鑑

本当にあった!特殊兵器大図鑑/横山雅司(彩図社文庫,2016)
 ずっと前に本ブログで『図説 世界の「最悪」航空機大全』というのを紹介したことがあったが(2010年1月16日のエントリー)、あれと多少趣旨が似ている。
 序文によると、本書は「兵器の失敗例」を集めたものだという。「偏った性能、使いにくい運用性、異常な高価格、使い道のない多機能、乗るだけで危険な安定性、すぐ壊れる信頼性など…」。
 つまりは、「特殊兵器」というより「失敗兵器」と言った方がいいような気がする。第一次世界大戦から現代までの、そんな「特殊兵器」を集めた本。一つのトピックあたり2ページ、写真つきで紹介。
 内容は時代順に4章構成。

 第一章「第一次世界大戦~戦間期の特殊兵器」。ドイツが開発した史上最大の列車砲「パリ砲」は、運用が難しすぎ、効果もあまりなかった。イギリスが作った世界最初の戦車、「マークI菱形戦車」は、故障が多くあまり実戦には使われなかった。――など、20種。日本の空母「鳳翔」も入っている。開戦時にはすでに旧式化していたためだそうだ。こんな風に、歴史に埋もれた失敗作というより、結構有名な兵器が入っている。
 第二章「第二次世界大戦の特殊兵器」は、本書のメインコンテンツと言うべきで、数も多く37種。その半分くらいがドイツの兵器。なぜかドイツというと変な兵器を作っている印象がある。
 登場するドイツ兵器は、例えば、「Bv141試作偵察機」(デザインが斬新すぎて不採用)、「Me323ギガント」(輸送能力は大きいが攻撃に弱い)、「A-4ロケット"報復兵器V2"」など。V2は、兵器としては別に失敗ではないのだが、開発者フォン・ブラウンの意図に反し、誤って運用されたということらしい。他に「ヘッジホッグ」、「伝単」など、実際に効果的で、別に失敗でないものも入っている。
 第三章「冷戦時代の特殊兵器」。27種。VTOLなど航空機の変わり種が多い。デザインが奇抜すぎて量産されずに終わった「対戦車ミサイル車両"パンサー"」。超音速ラムジェットの実験機で、実用化されずに終わった「ルデュック022」など、いかにもなマイナー兵器が並ぶ。だが中には、原子力潜水艦「ノーチラス」、ムスタングを2機くっつけた「ツインムスタング」みたいに、ただ斬新なだけで、別に失敗していない兵器も入っている。
 第四章「現代の特殊兵器」は、16種。現代になると、まだ開発・研究中で、そもそも失敗かどうか結果が出てない兵器がほとんど。「パワードスーツ「タロス」」、「ロボット軍馬ビッグドッグ」、「ADS暴動鎮圧兵器システム」など。
 こうして見ると、著者が最初に言っていた「失敗兵器」という趣旨から、後になるにつれてだんだんずれていってる気がする。

 ボリュームの関係で一つあたりの情報量が限られていて、本当のマニアには物足りないかもしれないが、兵器を巡る人類の(特にドイツ人の)試行錯誤のあれこれをお手軽に垣間見ることができる本。
 本書にはその後、『本当にあった!特殊乗り物大図鑑』、『本当にあった!特殊飛行機大図鑑』という姉妹編が毎年のように出ている。ネタは尽きないらしい。

Hontouniattatokushuheiki

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2017年9月 8日 (金)

戦艦長門の最期

戦艦長門の最期 戦争ロマン集/岡本好古(JOY NOVELS,2003)
 戦記小説集。最初の「空の騎士」以外は第二次世界大戦が舞台。それももっぱら海と空の戦いで、泥臭い陸戦の場面は出てこないのが、この作者らしいというか。
 収録作は7編。

「空の騎士」は、戦記小説には珍しい第一次大戦もの。日本人としてただ一人、フランス空軍部隊に参加して戦死した小林祝之助の生涯を描いたもの。ギヌメールやリヒトホーフェンといった当時のエースも登場する。
「夭折の巨艦『武蔵』」は、戦艦武蔵の短い一生――建造から、シブヤン海での最後の戦いまでを語る話。山本、宇垣、古賀といった連合艦隊幹部も登場するが、主人公は武蔵そのもの。
「戦艦長門の最期」も、前作と同様に、戦艦長門そのものが主人公。昭和14年8月、山本五十六が連合艦隊旗艦長門に登舷する場面から始まり、ほとんど無為のまま終えた太平洋戦争の期間、そして原爆実験での最期までを、日米の軍人たちを通じて描いていく。人間は完全な脇役なのだが、横須賀港から最後の出航をする長門を、元乗組員たちが丘の上から見送るシーンはなかなか感動的。
「蒼空のジャッカル」は、戦争末期、本土空襲に押し寄せるB29の編隊に対し「月光」を駆って迎え撃った撃墜王小川忠の物語。最後は機銃が故障し、B29に体当たりして戦死する。史実では同名のエースパイロットはいないようなので、架空の人物と思われる。モデルはよくわからない。
「海の騎士」はヨーロッパ戦線が舞台。第二次大戦中のドイツ海軍に、Uボート隊「海の狼」の3エースと呼ばれる艦長たちがいた。その一人、U99の艦長オットー・クレッチマーが主人公。クレッチマーの無駄な殺生はしない騎士道精神と、イギリス軍人との間の敵同士の奇妙な友情がテーマ。この「3エース」は実在の人物。
「深海の亡命者」も、潜水艦もの。戦争末期、インド洋でドイツのUボートと密かに接触し、物資や資料の受け渡しを行うという特殊任務についていた特務潜水艦イ-369の運命の物語。最後の任務で受け取ったのは、なんと敗戦ドイツから脱出してきた「あの人」。しかしイ-369は帰途突然の故障により沈没、全員あっけなく死んでしまう。なんの意味があったのかと思ってしまう話。これはもちろんまったくのフィクション。「伊369」という潜水艦は実在するが、終戦まで沈んでいない。
 最後の「生還の墓標」は、アメリカ人の目から見たミッドウェー海戦。海戦の直前、搭乗するカタリナ飛行艇が撃墜されて巡洋艦「三隈」の捕虜となったアメリカ人マックレーが、九死に一生を得た体験を回想する。「三隈」が撃沈された時、命をかけて彼を艦内から助け出したのは、日本海軍大尉クミ・ヒロシだった――という、短いけどちょっといい話。

 最初に書いたように、戦記ものにありがちな悲惨さや血なまぐささがあまりないのが、この本に収録された各編の特徴というか、岡本好古の作風。しかし書かれなかった部分を想像すると、底の深いドラマがどの作品にも埋もれているようだ。「深海の亡命者」は、ちょっと作りすぎだが。ベストはやはり表題作「戦艦長門の最期」だろうか。次点が「空の騎士」。

Nagatonosaigo

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2017年8月23日 (水)

アメリカ独立戦争

アメリカ独立戦争(上・下)/友清理士(学研M文庫,2001)
 マイナーな文庫から刊行されているせいで目立たないが、アメリカ独立戦争について日本語で読める一番詳細な歴史。というか、この独立戦争にテーマを絞った日本語の本というのは、他に知らない。

 実のところ、本書上巻では、独立戦争はいつまでたっても始まらない。ほとんどイギリスの政治の話ばかりなのだ。この巻の中心人物は、当時のイギリス政界の大物だったピット(通称「大ピット」)。イギリスでの政治の話の合間に、アメリカ大陸でのイギリス・フランス間の戦争や、不穏化する植民地情勢がはさまれるという感じ。
 だから、登場する人物は非常に多いのだが、そのほとんどがイギリスの政治家たちである。政治家であるとともに貴族でもある彼らの相互の関係は、政治的立場、利害関係、血縁関係がからんで複雑に入り組んでおり、なかなか頭に入らない。
 おまけに、爵位を得た人物については、以後はその爵位が名前になるので、同じ人物でも途中で呼び名が変わる。例えばピットがチャタム伯爵の爵位を与えられると、文中の表記が「ピット」から「チャタム」に変わる。他の人物も同様。歴史的には正確かもしれないが、混乱することこの上ない。正直言って、この上巻、決して読みやすくはない…。
 そして肝心の独立戦争は、上巻の最終ページに近くなって、やっと始まる。それまでが長かっただけに、「いよいよ来たか」という感は強いが。

 こんな風に政治劇が中心だった上巻に比べて、下巻はほぼ完全に戦史と言っていい。独立戦争でのイギリス、アメリカ両軍、さらに後から参戦するフランス軍の動きも含めて、指揮官の行動、部隊の動き、作戦と戦闘の推移などを細かく追っていく。登場する人物も一変し、ワシントンをはじめとする軍人たちが中心人物となる。
 独立戦争は、独立宣言直後のニューヨーク攻防戦に始まり、ニュージャージー戦役、戦争の大勢を左右したカナダ戦線、フランスの参戦、南部での戦い、そしてアメリカの勝利を決定づけたヨークタウン戦役――と展開していく。
 最後には、イギリス側が戦況を挽回する見込みがなくなったところで和平に応じ、アメリカ合衆国の独立が承認される。この時の外交交渉で大きな役割を果たしたのが、ベンジャミン・フランクリン。
 日本では「雷の実験をした人」というようなイメージしかないフランクリンだが、この本を読むと、彼が外交官として独立戦争でいかに大きな役割を果たしたかがよくわかる。アメリカでワシントンと並ぶ独立の偉人と称えられるのも当然の働きをした人だったのだ。――みたいなことも、この本を読めばよくわかる。
 日本に一番関係の深い国であるアメリカ合衆国がどのようにして生まれたのか、日本人はもう少し知っていてもいいのではないだろうか。この本を読んで、アメリカ独立の詳しい経緯をあまりに知らなかったことに改めて気づいたブログ主は、そんな感想を持ったのだった。

 ところで、この本の内容と直接の関係はないが、第二次世界大戦当時のアメリカ海軍の空母の艦名は、ほとんどがアメリカ独立戦争の戦場からとっていることもよくわかる。下巻に入ると、レキシントン、ヨークタウン、サラトガ、タイコンデロガ、プリンストン、カウペンスといった軍艦好きには聞き覚えのある戦場名が次々と出てくる。

Americanwar

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2017年7月 7日 (金)

巡洋艦「大淀」16歳の海戦

巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争/小淵守男(光人社NF文庫,2011)
 15歳で海軍特年兵に入隊し、16歳で「大淀」乗組員となって、終戦の年まで戦った著者による手記。
 全13章。「山河変わらざれど」と題された第1章は、三浦の砲台で迎えた終戦のエピソードになっている。第2章「海がよんでいる」から話は遡り、著者の生い立ちから特年兵として海兵団に入隊までを語る。
 訓練の日々を経ていよいよ「大淀」に乗り込むのが第5章「初陣」。軽巡洋艦「大淀」は、1943年に竣工したばかりの新造艦。写真を見ると、艦砲をすべて前部にまとめ、後部は水上機用格納庫と巨大なカタパルトで占められていて、いかにも(当時の)最新型といったスタイルの軍艦である。
 この新鋭艦に乗り込んだ著者は、第5章で語られるカビエンへの輸送作戦をはじめ、第8章から9章のフィリピン沖海戦、第10章の礼号作戦(ミンドロ島沖海戦)、第11章の北号輸送作戦と、度重なる海戦を経験することになる。制空権を奪われた中での作戦で、「大淀」は数えきれない空襲にさらされながら、ほとんど無傷で切り抜けてきている。戦死者は数人しかいない。よほど回避能力と対空能力が高かったのか、よほどの強運なのか…。
 また、この間には、短期間だが連合艦隊旗艦となったこともあった。本書にはその旗艦時代のことは5ページしか書いてない。その書きぶりによれば、一般の乗組員にとっては迷惑なだけだったようだ。だいたい、旗艦といっても前線に出ず、東京湾周辺をうろうろしているだけだったらしく、これなら司令部を地上に置いた方がましだと思われるのも当然だろう。
 最後の第13章「航跡果てしとき」では、「大淀」を離れた著者と、その後の艦の運命が語られる。「大淀」については、もちろん著者の体験ではなく、後の聞き書きということになる。
 1943年3月、著者は横須賀の砲術学校練習生となって「大淀」から降りることになる。練習生とはいっても、その頃にはもう教育どころではなくなっており、すぐに実戦部隊配属、そこで第1章に描かれた終戦を迎えることになる。
 一方、「大淀」の方は前線での戦いを無傷でくぐり抜けながら、呉に帰港してから被害を受けるようになる。3月の空襲で損傷、7月の大空襲でついに大破転覆してしまい、軍艦としての短い生涯(実働約2年)を終える。

 というわけで本書の内容は、今で言えば高校生くらいの年齢の少年がくぐり抜けたすさまじい体験なのだが、著者のポジティブ思考のせいか、乗艦が大破したり沈んだりする経験をせずにすんだせいか、戦記ものにとかくつきまとう悲惨さや暗鬱さはあまり感じない。作戦中ほとんど被害を受けなかった「大淀」だが、実は強運を持っていたのはこの艦ではなく著者の方だったのかもしれない。

Oyodo

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2017年6月25日 (日)

軍事の記号学

軍事の記号学/木村譲二(朝日新聞社,1989)
 タイトルだけを見ると、なんだか軍事問題を記号学的というか、現代思想的視点からあれこれ分析した、ちょっと小難しい本かと思ってしまう。『朝日ジャーナル』の連載記事を元に加筆、再構成したものと聞けば、なおさらだろう。
 しかし、著者は元々は軍事関係を得意とするジャーナリストだったが、本書の刊行後は数々のシミュレーション小説を出してむしろ作家として有名になった人。本書の中身は、現代思想とか何の関係もない。タイトルの「記号学」には、実のところ大した意味はなく、現代(刊行当時)の最新軍事テクノロジーや軍事用語を写真入りで解説した本なのだ。
 思うに、かつての『朝日ジャーナル』は左翼系反戦知識人の牙城として有名だった。しかし最低限の軍事知識もなしに反戦を唱えることに批判があり、その対策のひとつとして、企画されたのがこの軍事知識ガイドではないだろうか。単なる憶測だが。
 内容は小事典形式で、1項目あたり3ページ程度の短い記事が、6章に分けて掲載されている。巻末に1900年から1980年代後半までの兵器開発の年表つき。
 各章のタイトルと項目は次のとおり。

    1「CDI(非核防衛工場計画)」Conventiontional Defence Improvement
    スーパートルーパー、次期支援戦闘機、低烈度紛争、ナイトビジョンゴーグル、遠隔操作飛翔体、ステルス爆撃機、スーパーコクピット、兵器シミュレーター、前進翼機、チルトローター機。
    2「EW(電子戦)」ElectricWarfare
    空中警戒管制機、イージス艦、Cキューブ(Command,Control and Communications)、OHTレーダーなど、電子対策、電磁パルス現象、バトラー、電子戦機。
    3「対抗兵器・システム」Anti-Weapon Systems
    対戦車ミサイル、スティンガー、対艦ミサイル、対潜水艦戦、近接防御、ヘリボーン、ADS、魚型水雷。
    4「個人装備」Individual Equipments
    迷彩戦闘服、飛行服、防弾衣、ヘルメット、戦闘糧食、着装武器、自動小銃、手榴弾。
    5「NBC(核・生物・化学戦)」Nuclear,Biological,Chemical
    ICBM、SLBM、戦略爆撃機、SDI、巡航ミサイル、核兵器、化学兵器、化学防護車。
    6「通常戦力・兵器」Conventional Forces & Weapons
    MBT、近接支援、LCAC、HMMWV、半自走榴弾、装甲人員輸送車、航空母艦、地雷、発煙弾。

 これらの項目のうち、1章の「次期支援戦闘機」は、当時まだ正式名称が決まってなかった航空自衛隊のF2。同じく1章の「チルトローター機」は、まだ試作機の段階だったオスプレイ。6章の「LCAC」は、この当時の米軍の最新型揚陸艇として紹介されているが、その後日本のおおすみ型輸送艦に搭載されることになったのはよく知られているとおり。
 つまり、この30年近く前の本には、現在の第一線兵器が最新型あるいは開発中の兵器として登場している。ということは、今この時点で、20年、30年後に標準化する最新兵器がどこかで開発されているのだろう。

Photo

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2017年6月 9日 (金)

弱小空軍の戦い方

弱小空軍の戦い方 枢軸国と連合国に分かれた欧州小国の航空戦/飯山幸伸(光人社NF文庫,2007)
 第二次世界大戦当時のヨーロッパで、主要国(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ソ連)以外の国がどのように航空戦力を整備・運用したかという、実にマイナーなテーマについて、丁寧に調査、解説した本。
 全体は2部構成。
 第1部「大国との戦い」は、各国の大戦当時の航空戦力事情と、その戦いの経緯を簡単に説明。
 第1章「連合国側の国々」は、オランダ、ベルギー、北欧(ノルウェー、デンマーク、バルト三国)、ポーランド、バルカン半島(ユーゴスラヴィア、ギリシア)の各国。
 第2章「ナチス・ドイツ側の国々」は、チェコスロヴァキア、オーストリア、ルーマニア、ハンガリー、フィンランド、ブルガリア。大戦が始まる前にドイツに併合されたチェコスロヴァキアやオーストリアまで出てくるのが、本書の徹底したところ。
 第3章「中立国」は、スウェーデン、スイス、スペイン、ポルトガル。これで当時のヨーロッパのほとんど全国家が網羅されていることになる。出てきてないのは、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン、モナコみたいな極小国家とアイスランドくらい。
 第2部「弱小国の軍用機」は、第1部に登場した各国の自国製軍用機について、機種ごとに解説するという、実にマニアックな内容。ただし、その国独自の軍用機を持たなかった国は出てこない。この第2部が総ページ数の4分の3を占めている。
 だいたい第1部に出てきた順番になっていて、オランダ、ベルギー、ノルウェー、リトアニア、エストニア、ポーランド、ユーゴスラヴィア、チェコ、スロヴァキア、ルーマニア、ハンガリー、フィンランド、ブルガリア、スウェーデン、スイス、スペインの各国。
 さらに「影響が大きかった外国機」、「異国が働き場所になった軍用機」、「敵陣営で使用された各機」について解説。
 驚くのは、リトアニアやエストニアみたいな小国でさえ、自国開発の軍用機を持っていたこと。もっとも、エンジンは大半が外国製かそのライセンス生産だが。

 タイトルに「戦い方」とあるわりには、具体的な作戦や個別の戦い、将軍やパイロットたちのエピソードはほとんど出てこず、飛行機の話ばかりに終始している。しかし、次々と紹介される、いかにも旧式な、聞いたこともない軍用機の数々の図面や説明からは、著者の「マイナー航空機」への情熱が伝わってくる。

Jakushoukuugun

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